ばんぶるびーのにっき ばんがいへん
サム、セイバートロンせいにいく











 赤い光を放つレンズが僕を撮っていた。

 いや、それはそんなに生易しいものではない。その赤い光は禍々しく、ちっぽけな僕を押しつぶしそうな威圧感を放っている。

 機械の瞳。テレビなんかでよく見る、与えられた命令しかこなせないちゃちなロボットとは全然違う。生きてる機械。そうとしか表現できない。

 巨大な赤い瞳が僕を見ていた。


「メガトロン様、なんですかそれは?」

 扉が開いてもう一人の機械が姿を現した。僕を見ていたのよりは一回り小さい。

 僕をじっと見ていた機械は、顔だけでも見上げるほど大きな銀色の体をしていて、いかにも悪者みたいなトゲトゲがたくさんついている。新しく来た奴はところどころにパトカーらしきペイントが見え、警察呼んで貰えるかも。なんて僕はほんのちょっとだけ期待した。

 銀色の方がパトカーより偉いらしく、パトカーはずいぶんと丁寧な口ぶりだった。機械にも上下関係があるなんてオドロキだ。何で優劣決めるんだろうな? ワット数?

「バンブルビーへの土産だ」

 怖いからやめて欲しいんだけど、僕をじっと見ながら銀色が返事をした。

 土産ってなんだよ……!

 僕は狼狽する。僕はただ、ようやく買ってもらった中古のカマロでドライブしてただけなのに。突然この銀色に捕まえられて、透明な箱の中に閉じ込められた。僕はどうなっちゃうんだ!

「地球土産ならば、仰って下さればもっとよいものを準備いたしましたのに。こんな……『人間』などではなく」

 僕は瞬時に理解した。パトカー野郎は相当嫌な奴だ。僕を、いや、人間を馬鹿にして見下しているのを隠そうともしない。

「お粗末で悪かったな。だったら僕を帰してくれよ」

 僕は嫌味を言ったが、機械たちは完璧に僕を無視している。

「この間、バンブルビーが隠れて飼っていた巨大ミミズがプライムにばれて研究所に連れて行かれたと泣いていたのが不憫でな。確かにみすぼらしいが、ミミズの代わりくらいにはなろう」

 ミミズ!? 僕はミミズの代わりにどこかへ連れて行かれるのか? あんまりだ!!

「なるほど。ですが、その奥方殿にまた文句を言われるのでは?」

「なに?」

「一応、人間は『知的生命体』です。かろうじて、ですが」

 さっきからいちいちムカツク奴だ、こいつは。

「ふむ……。もうここまでつれて来てしまったからな。仕方ない。宇宙に放り出すよりはましだろう」

「余計な事を囀れぬように声帯を掻っ切りましょうか、メガトロン様?」

 おいおいおいおい、何を言い出すんだこいつは……! パトカーの姿をしているくせにとんでもない犯罪者思考だぞ。この詐欺師野郎!

「いや、やめておこう。傷物の土産を貰っても嬉しくはあるまい」

 銀色の方が鷹揚に言ったので僕はほっとして大きく息を吐いた。銀色に他の奴が話しかけうようと近づき、銀色はパトカーに僕入りの箱を手渡した。パトカーが僕に顔を近づける。

「命拾いしたな、虫けら」

 悪意に満ちた声でそいつは言うと、僕の視界が急激に下がり、床に降ろされた。

 こいつ、僕が話を十分理解してると知ってて言ってやがるんだ。

「閣下、地球圏を抜けました。これよりセイバートロンモードに戻します」

 報告を受けた銀色は頷いて、パトカーは僕の事など眼中にないという態度に戻って言った。

「ようやく『地球式』から開放されてせいせいします。わざわざ程度の低い文明に合わせなければならんとは、役立たずの最高議会は厄介な条約を結んだものです」

 僕が二人の会話を理解できたのはそこまでだった。今まで英語で会話していた機械たちは、僕の理解できない音で意思疎通しだしたから。

 地球圏を抜けた……って、今どこにいるんだ。「宇宙に放り出すよりは」ってさっき言ったよな、確か。

 宇宙!?

 僕はショックを受けたが、次の瞬間にとりあえずのそのショックは吹っ飛んだ。僕にはそんなのどうでもいいって思うほどの危機に直面したからだ。

「うわぁぁぁ、やめろっ、あっち行け! あっち行けってば!」

 パニックになって僕は叫んだ。突然、僕の入っている透明なケースに恐ろしい化け物が飛び掛ってきたんだ!

 大きなはさみを振り回し、胴体に生えた沢山の足がわしゃわしゃと動くのが見える。おえっ!

 蠍! 巨大な金属の蠍が僕を狙っている。

 蠍はギチギチと鳴きながら僕にアタックしては透明な壁にぶつかっていた。頭はあまりよくないらしい。

 僕はそいつに中指を立てると、そいつを壁ごしに蹴飛ばした。蠍はもっと怒って手足を振り回したけど、その動きがぴたりと止まった。

「やめろスコルポノック」

 蠍の後ろから、十年頭を洗ってないボブ・マーリーみたいな頭をした機械が現れてそう言ったとたん、そいつは甘えるようにきゅーとか鳴いてボブ・マーリーの足元に頭をこすり付けた。

 ったく、おまえが飼い主かよ! 趣味の悪いペットは放し飼いにしないでちゃんと管理しろ!

 僕は心の中で悪態を付いてそいつを見上げると、恐怖のあまり固まった。

 おいおいおい何持ってるんだ手に。

 そいつは銃っぽいなにかを持っていて、しかも銃口を僕のいるケースの中に突っ込んでくる。

 なんだよ、やめてくれ……!

 恐怖に固まって銃口を見つめていると、銃口から白いガスが吹き出た。

 寒い……! 見る見るうちに体温が下がり、瞼や口の中が凍ってへばりついた。僕は恐怖で無理やり口を開き叫ぶ。

「わぁぁあぁぁああぁあ」

 自分の絶叫を聞いたのが最後だった。



 ガサガサ音がして僕は目がさめた。

 うるさい。

「煩いよモジョ。寝かせてくれ」

 僕が呟いたとたん、耳を劈くような高い音が僕の鼓膜を突き破りそうになった。

「うわぁっ!」

 僕は飛び起き、耳を押さえながらあたりを見回した。

 どこだ、ここ!?

 知らない場所、というか始めて見る物に囲まれて僕がうろたえていると、頭上から影が落ちた。思わず上を見上げる。

 透き通るような青い光。大きな青い瞳。

 目があった……!

 またロボットだ! ん? 「また」

 そうだ、まただ。僕はロボットの世界に連れてこられたんだった。

 僕は青い目を見返した。僕を覗き込む青い目をしたロボットはおしゃぶり咥えてるような可愛い顔をしていて、ボディを鮮やかな黄色にペイントしていた。

 じっと見つめ合っていると、僕を穴が開きそうなほど見ている瞳に光が瞬いて、頭が痛くなりそうな音がした。

「うわ」

 僕は思わず耳を塞ぎ、苦痛を感じて顔をゆがめた。しばらく酷い音がしていたけど、やがてぴたりと音がやんだ。

 僕は恐る恐る顔を上げる。

 あっ!

 黄色いロボットは床にうつ伏せになり、しょんぼりとした顔で僕を見ている。

 泣きそうな顔してる。ロボットだけど。

 多分、僕に何か言いたかったんだ。でも通じなかったんだ……。

 ごめんね。と僕は思わず謝った。

 陽気な黄色いボディは、それだけで僕に好感を抱かせた。だって僕の大事な大事なカマロと同じ色だったから。ちょっぴり黒が入ってるところまで一緒だ。まあ、あっちの黄色は塗りたてぴかぴかで僕の大昔のカマロはくすんでところどころ錆びちゃってるけど。

 それに、優しい目をしてる。しぐさも可愛いし、悪い奴じゃないと思う。なんとか話せないかな。

 僕が思いをめぐらせてると、規則的な音が聞こえた。近づいてくる。足音みたいだ。

 僕はとっさに息を潜め、動かないようにした。目の前にきたものに釘付けになる。

 青地に赤のファイアパターン。

 それを見て、僕は今更ながらに気付いた。パトカー、レーシングストライプ、ファイアパターン。車だ。こいつら車なんだ。車がロボットになった? いや、ロボットが車に……偽装する!

 色んな事を考えすぎて頭がぐるぐるする。

 ファイアパターンのロボットは手を伸ばし、黄色をそっと抱き上げた。

 抱っこして、背中をゆっくりとさする。

 あの子は子供なんだ、多分。今まで僕が見てきたロボットに比べるとすごくちっちゃいし、僕が小さい頃、ぐずる僕にママが同じようにしてくれたのを覚えている。

 じゃファイアパターンは、ママ?

 こっちは胸板も立派だし、大きくてずいぶんとごつい。間違いなく最初に見たパトカーよりも大きい。顔もなんか男前だし、僕の基準で言うとこれは男だ。しかも頼りになるカッコイイ男。そういう雰囲気。ロボットだけど。

 でも、目がとっても優しい。子供を抱っこしてゆらゆらと揺れる仕草や、愛しそうに背を撫でる手は優しいおかあさんだ。

 ファイアパターンのロボットは、黄色いロボットを宥めるように何かを囁いていた。何を言っているのかはさっぱりだけど、優しさだけは不思議と伝わってくる。

 黄色いロボットはむずがるようにいやいやをしてファイアパターンにしがみ付く。やっぱり子供だよ、ちっちゃい子供。カワイイなあ。

 ファイパターンが少し困った顔をして黄色いロボットを抱きなおすと、青い瞳が何気なく僕の居るあたりの床を流した。

 やばい!

 再び僕は機械と目が会った。これで何度目?

 見つかった。

 ファイアパターンは僕を見て一瞬固まっていたが、何か言いながら急いで黄色を床に降ろした。

 僕を良く見ようと床に這い蹲り、巨大な顔が近づいてくる。僕は思わず後ずさる。

 とたんにぐらりと大きく揺れて、立っていられずに僕は転がった。上下左右にすごい揺れている。ぶれた視界を、僕のカマロと同じ色が覆った。黄色いロボットが僕の入った箱を持って逃げてるんだ。

 揺れるだけでも苦しいのに、急に明るくなった。

 外に出た?

 僕は床にうつぶせになり、何が起こっているのか把握しようとなんとか前を見た。

 黒くてごついロボットが行く手に待ち構えている。

 捕まる……!

 案の定黄色いロボットは黒いロボットに捕まり、叫びながら足をばたばたさせる。とその時、鈍いシルバーのミサイルが黒いロボットに突っ込んだ。

 激しい勢いでごろごろと転がり、胃から内容物が逆流しそうになる。助けて……!

 シルバーの……、あれはミサイルじゃない。あれもロボットだ。銀ロボットが黒ロボットにドロップキックかましたんだ。仲間割れか? なんなんだ!!

 黄色は急いで僕を抱えなおした。再び逃げ出そうとすると、後ろへ引っ張られるようにがくんと揺れた。ふり向くと、新しく現れた緑のロボットが手に装備したサンルーフ(あれは間違いなくサンルーフだ)をこちらへ向けている。強い力で後ろに引っ張られているらしく、黄色いロボットは前へ進もうと足掻いたけど、力尽きて後ろに吹っ飛んだ。がちん! と音がしてサンルーフにぶつかって止まる。

 黄色いロボットは逃げようとしてもがくけど、もぞもぞするだけで体が動かない。多分、強力な磁石かなにかにくっつけられたんだ。凄い衝撃だったのに、黄色は僕が入った箱を放さななった。

 緑のロボットの足元が見えた。

 Search & Rescue

 今度はレスキュー車か? 頼むよ、ホント……。

 向こうで、黒いロボットがシルバーのロボットを地面に這い蹲らせ、動けないように腕をキめていた。黄色いロボットが僕の入った箱を取り上げようとする手に抵抗して、箱を強く抱きかかえて苦しそうな音を出す。だけど、大きなロボットたちは、小さいこの子から僕を簡単に奪った。一生懸命僕へ手を伸ばし、青い目が僕を見て叫んでいる。

 この子、多分僕を守ろうとしてくれてるんだ。僕は確信した。子供なのに、こんなに必死に、自分よりはるかに大きなロボットを何人も相手にして。

 僕もその子に向かって手を伸ばした。壁を拳で叩いて、大声で離してやれと叫んだ。

 もどかしくて、悔しくて、僕はそうせずにはいられなかった。




 僕はなすすべもなく大きなロボットの手に抱えられて何処かへ運ばれた。大きな手はゆっくりと僕の入った箱を下ろし、僕への気遣いが感じられた。

 僕は上を向き、僕を連れてきた巨大なロボットを見上げ、目が合うとそのロボットは僕と目線を合わせようと顔を近づける。凄い迫力だ。

「ニイハオ」

「なに? 何て言ったの?」

 僕が怪訝な顔して呟くと、ロボットは少し間を置いて口を開く。

Hello

 低く良い声で彼はそう言った。ようやく言葉が通じたので一応ほっとする。

「通じてる。判るよ」

 ロボットは頷いた。

「怖がらないで欲しい。恐怖やその他から自由であることは知的生命体の権利だ。私たちは君を傷付けない」

「とても良い方針だね。最初からそうでいてくれると僕は助かったんだけど。今後は出来る限りその方針に従って欲しい」

「……君をこんな目に合わせた奴に言って聞かせよう」

 苦々しい声で言って、続いて彼は自己紹介した。

「私はオプティマス・プライム。先ほどは本当にすまなかった。君の安全を考えるとああするしかなかったのだ。今君を自由にする」

 僕は硬い表情で頷くと、鋼鉄の指が僕の入っていた箱を開け、僕はようやく狭い空間から開放されてうーんと伸びをした。

 気がつくとさっき叩き付けた拳が痛い。あの黄色い子はどうしているだろうか?

「君にとっては不本意な来訪であったと思うが、ようこそセイバートロンへ。よければ君の名前を教えて欲しい」

「……まあね、でもありがとう。僕の名は、サミュエル・ジェームズ・ウィトウィッキー。サムでいいよ」

「ウィトウィッキー? ああ、眼鏡の……」

 え? なんだ眼鏡のって。

 僕は知らないロボットが僕のファミリーネームを眼鏡という単語と組み合わせて知ってるのに驚いた。

「眼鏡って?」

「いや、こっちの話だ、気にしないでくれ」

 無理だ。

「私たちと君たちは国家レベルではまだお互いの保護について明確な約束を交わしていない。だが、私が個人的に君の生命の安全と権利の保護を約束しよう」

「ありがとう、オプティマス。僕は地球へ帰りたいんだけど、出来る?」

「必ず。私はこの星の国家元首を勤めていた。元、だが、その時の伝手を辿れば君のために宇宙船を手配できる」

「元? 今は?」

「主婦」

「しゅふ」

 僕は思わず呟いた。ショックだ。びっくりだ。僕のママも主婦だけど、オプティマスもうちのママと一緒だと認められない、なんとなく……。

「君をこの星へ連れてきてしまったのは、私の夫だ。名をメガトロンという」

「ああ、多分知ってる。あのデカくて凶悪な顔した怖い……」

 うっかり言いかけて、おっと。と僕は口をつぐんだ。ちらっとオプティマスを見ると、別に気を悪くした様子は無い。よかった。

「君への謝罪と償いをどうするかは奴を交えて後ほど話したい。今は代わって私が謝罪する。大変な目にあわせて申し訳なかった」

 オプティマスはわざわざ立ち上がって深々と頭を下げた。僕はオプティマスの言葉を信じる事にした。彼の声や態度から誠実さがにじみ出ていて、僕はすぐにオプティマスが好きになった。第一悪いのは、あの銀色のどでかくて怖いロボット、メガトロンなんだし。

「いいよ。気にしないで。気苦労多そうだね」

 僕はオプティマスに遠慮してごく控えめに言った。オプティマスと僕がもっと親しければ、何か弱みでも握られて無理やり結婚させられたの? って聞くね。

 しかし、まあ、あの悪の権化みたいなメガトロンと正義のヒーロみたいなオプティマスが夫婦だなんて……。

「あいつはいつも私に心配ばかりさせる……」

 僕が悩んでると、オプティマスは目を伏せ、ため息をつきながら言った。

 そのオプティマスが色っぽくてドキッとした。人妻の色気ってやつかな? ロボットだけど。

 今のは、苦労するけどその役を他人に譲る気はないって言い方だ。なんだ、無理やり結婚どころか、オプティマスはメガトロンを深く愛してるんだ。確かに、愛してないとついてけないよな、ああいうタイプ。

 オプティマスと僕がもっと親しければ、オプティマスってマゾなの? って聞くところ。

「あの子は? あの、黄色い」

「私の息子のバンブルビーだ」

「会いたいな。会わせてくれる?」

「もちろん。私が君を有機生物研究所へ連れて行くと思い込んで、泣いて手がつけられない。そう言ってくれて助かる」

「研究所?」

「行きたいか?」

 オプティマスは僕をからかうように言った。へえって僕は思った。まったく堅物ってわけじゃない。オプティマスはそういう冗談も言うんだ。

「絶対お断り」

 僕は肩をすくめる。バンブルビーがあんなに必死になってとめてくれたんだ。連れて行かれたらマッドな研究者たちに解剖されるに決まってる。

 オプティマスはどこかへ連絡したらしく、しばらくして僕らのいる部屋の扉が開くと、黄色いロボットが緑のロボットと手を繋いで立っていた。

「彼はラチェット、人間風に言えば我々の医師だ。君の健康状態を調べてくれる。ラチェット、彼はサムだ。念のため彼を診て欲しい」

 オプティマスが緑のロボットを紹介してくれたとたん、緑のロボットは僕に突然謎の光を当てる。

「わっ!」

「ご安心を、オプティマス。サムの生命維持に問題はなく、精神状態も落ち着いています。よろしく、サム」

「よろしく……」

 いきなりかよ! なんというデリカシーのない医者だ!! と思ったが言えなかった。なんか逆らうとよくない気がしたから。

 オプティマスはラチェットに礼を言った後、黄色いロボットを僕の前に連れてきた。

「私はすでに地球に関する情報を君たちのワールド・ワイド・ウェブからあらかた得ているが、この子はまだ幼く、有害な情報をシャットダウンするため外部との接続を制限している。だからワールド・ワイド・ウェブに繋げず、君との意思の疎通を図れなかったのだ」

 へぇ〜。僕たちの知らない間に宇宙人がネットで情報を得る時代になったんだ。車のデータもそこからとってきたのかな? 宇宙のロボットの間で地球の車が流行ってるんだとしたら凄いぞ。

「データを移すからバンザイしなさい」

 オプティマスが言うと、黄色いロボットは素直にバンザイした。脇の下のポートに、オプティマスが自分の体から引っ張り出したケーブルの先を繋ぐ。便利そうだけど、なんか抵抗ある。

「今、有害なものを除く地球の情報を彼に与えた」

「おかあさん、しゃべっていい?」

 黄色い子は恐る恐るといった感じで英語を使って、オプティマスの顔を見ている。

「発言を許可する」

 優しく笑って、オプティマスは黄色いロボットの背を僕に向かってそっと押す。

「こんにちは、おいらバンブルビーです」

「こんにちは、僕はサム」

 僕たちは顔を見合わせた。さっき初めて会ったとは思えない。まるで十年も前から友達だったような気がする。

「やっと……、話せたね、バンブルビー」

 バンブルビーは頷いた。

「おいらサムとおともだちになりたい」

 おずおずと言うのが可愛くて、僕は思わず親愛の情を込めてバンブルビーをハグした。

「僕たちもう友達だろ?」

 バンブルビーが嬉しそうに頷く。

「サム、おとうさんがいってたけど、カマロすき?」

「大好きだよ。僕の初めて買った大事な車がカマロなんだ」

「おいらも!」

 僕とバンブルビーは、飽きもせずにずーっと話し続けた。車の事、地球の事、セイバートロン星のこと、お互いのおとうさんのこと、僕が憧れてる女の子の事。そのほかいろいろ。ほっといたら一晩中でも話し続けただろう。

「おとうさんはサムをここにつれてきてだめだったけど、おいらサムにあえてよかった」

「僕も。最初は酷い目にあったと思ったけど、君に会えてよかった」 

 僕は嘘ではなく、本当にそう思った。

 

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