Amazing Grace









 星図にも載っていないような、辺境の小さな星。
 オプティマスは、宇宙で敵との交戦中に姿を消したメガトロンを探し求め、すでに幾つか同じような星へ降り立った。必死の努力が徒労に終わる度、焦りと疲労がオプティマスの精神を蝕み、不安に押しつぶされそうになる。
 それでも、絶対にメガトロンは生きているという強い思いに突き動かされ、また星を巡る。

 今度こそとオプティマスは祈るような気持ちでこの星に降りた。
 ラチェットには、もう一つか二つ星を探索したらセイバートロンに帰還するようにときつく言われている。
 オプティマスは、ラチェットの怒りを湛えた表情を思い出した。
「くれぐれも無理はなさらないように。あなたの体はあなたお一人のものではありません」
 ……あの剣幕では、セイバートロンに帰還したらラチェットのラボから出してもらえそうにないな。
 そう思って苦笑し、エントリーモードから二足歩行できる姿に形を変えると、ブラスターを手にした。未知の星では何があるか判らない。
 セイバートロンに平和が戻り、武器庫にしまいこんでいた愛用のブラスターの重みは、久しぶりに手にしたというのにすぐに自分の一部になった。
 それを手にすると、懐かしさとともに、なんとしてでもメガトロンを見つけ出すという闘志が湧き上がる。その感情の荒々しさにオプティマスは少し驚いた。私はこんなに好戦的だったのだなと今まで知らなかった新しい自分を発見した思いだ。早くメガトロンの感想が聞きたいと思う。

 オプティマスは、さっそくこの星の探索を開始した。
 目の前に広がる大地は遮るものがほとんど無く、地平線が綺麗に見える。
 ざっと大きな範囲でスキャンを開始する。
 動くものを発見して精度を上げた。
 生命体の群れだ。動きが統率されている所を見ると、知能を持っているかもしれない。
 もっと良く調べようとしたところでひどく磁気が乱れ、オプティマスはそれ以上の探査を諦めた。この星は機械生命体に優しくない。磁気嵐が酷くなれば、宇宙に残してきた船との交信も難しそうだ。

 オールスパークを求めて永い永い旅をしていた頃、沢山の星を回った。
 極まれに生命体がおり、極々まれに知的生命体と出会った。
 旅の終わりの地球でも、未熟な知的生命体と遭遇したなと懐かしい思いに囚われる。そういえばこの星は地球に似ている。
 なんの当てがあるわけでもないオプティマスは、とりあえず先ほど発見した生命体の群れへ向かって移動を始めた。


 オプティマスに懐かしさを覚えさせたこの星の生命体は、知性を持っているようだったが、地球の「人間」よりももっと未成熟で、原始的に見えた。
 だが、それをじっくり観察している余裕は今のオプティマスにない。
 オプティマスの前に、ひどく破壊されたメガトロンが横たわっている。
 生命反応を探るのももどかしく、オプティマスは一番判りやすい方法をとった。
 はやる気持ちを抑えて、メガトロンのスパークチェンバーを素早く開ける。
 パワーコアの力強い光がオプティマスの顔を照らした。 
 生きている……!
 オプティマスのブレインサーキットが溢れそうになるほどの安堵と歓喜に、しばし身動き出来なくなるほどだった。メガトロンが生きていた事と、探索を手助けしてくれた友に感謝する。
「ラチェット、メガトロンを発見した」
 宇宙で待っているラチェットに呼びかける。だが返事がない。磁気嵐が酷いのだろう。治まるのを待つしかない。幸いメガトロンの命に別状はない。
 少し落ち着くと、オプティマスは改めてメガトロンの体を入念にスキャンし、意識は無いものの、内部の修復が進んでいる事を確認する。
 外部の損傷は酷く、大規模なパーツ交換が必要な状態だった。大きな亀裂やへこみがいくつもあり、右腕の半分と右足は吹き飛ばれされている。
 重傷を負ってはいるが、メガトロンが巻き込まれた爆発の激しさは普通の機械生命体ならば跡形も無く消え去っている所だ。いかにメガトロンが化け物じみた強さを持っているのかが判る。
 元通りになるには大掛かりなリペアが必要だが、内部の修復はだいぶ進んでいた。時間が経てば意識を取り戻すだろう。
「私の元を離れて、どこをほっつき歩いているかと思えば……」
 ラチェットに教えられたとおり医療用の器械をメガトロンに取り付け、応急処置を施しながら、安堵の後の恨み言が口に出る。
「私が恋しくは無いのか、メガトロン!」
 責めてもメガトロンは答えず、オプティマスは、処置が効いて明るさを増したパワーコアの強い光をにらみつけた。だが、すぐに青い目の光が潤み、目頭を押さえる。
 自爆した巨大な敵戦艦と共にメガトロンが消えたと報告を受けた。
 戦場にいるメガトロンから、じき戻ると通信を交わしたすぐ後の事だった。
 メガトロンに完膚なきまでに叩きのめされた敵は、メガトロンを恐れるあまり、恨むあまりに、大きすぎる犠牲を払ってまでメガトロンを滅しようとしたのだ。
 情報部からはメガトロンの存在をロストしたという報告が上がり、集めたデータが不吉な予想を吐き出す。
 体が凍りつきそうな恐怖と絶望を意志の力でねじ伏せ、わずかな時間も惜しいと、最高議会による捜索隊が編成される前にオプティマスは宇宙へ飛び立った。
「すぐに私の元へ帰ってくると約束したはずだ。戦いが終わればすぐアイアコンに戻る。記念日を共に祝おうとおまえは言ったのに、とっくに過ぎてしまったぞ」
 オプティマスは小さく囁き、目の前に横たわるメガトロンが果さなかった約束を責めようとした。
 だが、できない。
 最高議会は、和平の条件として、オプティマスが国家元首を辞すること、メガトロンがオプティマスをアイアコンに残して辺境守備の任務に就く事を求めた。最高議会の言う辺境守備とは、友好国への支援を名目にメガトロンを金で貸し出し戦わせるという事であり、それを知ったオプティマスの抗議は、資源も枯れはて、荒廃しきったセイバートロンを復興させる資金を得るためにやむをえないと退けられる。
 オプティマスは、宇宙のどこかで戦いが起こるたび戦場へ駆り出されるメガトロンが不満を募らせ、再び最高議会を見切ってしまう事を恐れた。
 だが、メガトロンはオプティマスの不安に対して、俺が中央へ戻る事を許さざるを得ないほどの武功を立てにいくのだと言った。
 メガトロンは、戦いに赴く前に、私に向かって、この戦いが終わればずっと一緒にいられると言った。
 責められるものか。
 全身酷く破壊されたメガトロンの側で片膝をついてうなだれ、オプティマスが強く思う。
 自分の為にこんな姿になるまで戦ったメガトロンの気持ちに感謝が溢れ、メガトロンが愛しくてたまらなかった。オプティマスは長い間メガトロンに寄り添い、パワーコアの光を見つめて動かなかった。


 オプティマスが再びこの星の知的生命体の事を思い出したのは、オプティマスの出現で逃げ去った彼らが再び近づいてきたからだった。
 オプティマスがじっと動かないものだから、メガトロンと同じく無害だと判断したのかもしれない。
 驚かせないようにしばらく見ていると、彼らは地球の動物、クマの子供に良く似ていた。ただしその毛皮はカラフルで、赤、青、黄色、そのほかいろいろな色の毛皮のかたまりがオプティマスの目の前をちょこまかと二足歩行で動く。
 オプティマスは、彼らが毛皮になにかつけており、それがメガトロンの一部である事に気付いた。
 今も、原始的な道具でメガトロンから小さな部品を外そうとしている。メガトロンの部品は、なにかおしゃれなアイテムとして彼らの間で流行しているようだった。
「すまないが、部品を取るのをやめてもらえないだろうか? これは一時的に機能停止しているだけなのだ。おまえたちが原始的な手段でメガトロンを分解する前にメガトロンは目覚める。そうすればおまえたちはメガトロンの怒りを買うことになるだろう」
 なるべく驚かせないように言ったつもりだが、カラフルなクマ達はびっくりして一斉に逃げ出した。
 逃げようとしてメガトロンの隙間に足をとられ、転んでしまったクマをオプティマスがそっと助け起す。黄色いクマのような生き物は、オプティマスに助けられた後、逃げもせずにじっとオプティマスを見上げた。
 オプティマスが地面に手をつき、屈んで黄色いクマと目線を合わせた。黄色いクマはじっとオプティマスを見つめている。オプティマスも黄色いクマを見返し、何度か瞬きした時に、おもむろに黄色いクマがオプティマスに向かって指を差した。
「なにが言いたいのだ?」
 オプティマスが戸惑うと、黄色いクマがオプティマスの顔に飛びついた。オプティマスの青い光を放つ目を不思議そうに覗き込んでいる。
「ああ、これが欲しいのか」
 オプティマスは、怪我をしないように優しくクマを摘み上げて少し離れた場所に下ろし、体を起こした。
 目元に触れ、指先に力を入れる。
「これをやろう。だから、メガトロンはあきらめろ。これは私のもの。だからな」
 珍しく冗談めかした事を言い、オプティマスは黄色いクマの前に透き通った青い部品を置いた。
 光は放たなくなったが、十分綺麗なその部品を前にして、黄色いクマはじっとオプティマスを見上げた。
「さあ、それを持って行きなさい。メガトロンが目覚める前に。怖いぞ、こいつは」
 急かすように指先でつつくと、クマが二匹猛然と仲間を取り返しに走ってきた。黄色いクマは黒いクマが小脇に抱え、銀色のクマがオプティマスの部品を稲妻のような素早さで拾ってあっという間に走り去っていく。
 危害を加える気はないのだが、しょうがあるまいな。
 オプティマスが苦笑しながら見送ると、後ろからうめき声が聞こえた。
 急いでメガトロンの頭を膝に置き、顔を覗き込む。
 メガトロンの瞳に赤い光が点った。
「プライム?」
 かすれた声で名前を呼ばれ、頷く。
「記憶がはっきりしない。センサーもいろいろイかれている。最悪の気分だ。それに、俺の手がない。この足も俺のものではない」
「おまえの腕も足も吹き飛ばされた。足は応急的に代わりのものを使っている」
「融合カノンが使えん」
「お前は瀕死の重症だったのだぞ、わがままを言うな」
 不機嫌そうに言ったメガトロンを思わず叱る。メガトロンは、ふと皮肉げな笑みを浮かべた。
「無様だな」
 メガトロンが自分自身へ向けた辛辣な一言に、オプティマスが言葉を失った。自分を責めているのであろうメガトロンになんと言えば良いのか迷っていると、メガトロンが立ち上がった。
「メガトロン、無理はするな」
 オプティマスも慌てて立ち上がり、体に触れようとすると、メガトロンが不思議そうな声を出した。
「なんだこれは」
 メガトロンの目線の先を追うと、先ほどまでメガトロンが横たわっていたあたりに、地球の昆虫によく似た生き物が平たくなっていた。
 大きさはメガトロンの三分の一くらいで、肉食らしいがっしりしたアゴや鋭い爪がいかにも凶暴そうだ。元はさぞかし派手に暴れまわっていたのだろうが、今は惨めに潰されている。
「お前が落ちてきたときに、偶然この生き物を下敷きにしてしまったのだろう」
 オプティマスが言うと、メガトロンが露骨に嫌な顔をして背中を気にしだす。
 その時、予想外のことが起きた。
 メガトロンとオプティマスの間を通って、先ほどのカラフルなクマたちが大勢でやってきたかと思うと、潰れた昆虫のような生き物を必死に攻撃する。
「何をしているのだ、こいつらは。それはもうとっくに死んでいるというのに」
「おそらく、この種族の天敵なのではないだろうか? ずいぶんと嫌っているようだ」
 大きさからして、大きな昆虫のような化け物に襲われたクマたちはひとたまりもないだろうとオプティマスは思った。オプティマスが考え込んでいると、メガトロンがおかしな声を上げた。
「ん……?」
 いつのまにかカラフルなクマたちに囲まれているのに気付き、メガトロンがたじろぐ。
 クマたちはメガトロンを取り囲むと、ぺたんと膝をつき、メガトロンに向かって手を上げたり下げたりしだした。
「なんだ、何をする。やめろ、散れ! ゴミどもめ! プライム、貴様もなんとかしてくれ」
 メガトロンがうろたえた声を出し、助けを求めるようにオプティマスを見る。
「なるほど、お前は天敵を倒した英雄という訳か。やはりお前は王の器なのだな」
 オプティマスがわざと感心したように言うと、メガトロンの鋭い歯がきしんで不吉な音を立てた。
「ゴミどもに懐かれて嬉しいものか! 拝むな! 触るな!」
 そう言いながらも、メガトロンはクマたちを強引に追い払おうとはしない。
 メガトロンは、小さくてか弱い生き物に意外と優しい。その事を知っているオプティマスが我慢できずに笑い出す。
「笑うな! プライム、この……、あっちへ行かんか!」
 カラフルなクマ族の英雄になったメガトロンは、クマたちに背中を綺麗にしてもらってようやく機嫌を直した。


 太鼓を叩いて踊りを披露したり、体を磨いたりと、ひたすらメガトロンを崇拝していたカラフルなクマたちは、日が沈むと一匹また一匹とねぐらへと帰っていった。
 黄色いクマがオプティマスとメガトロンを広くて大きな洞窟へ案内してくれる。大型の二人が入ってもまだ余裕があるほどの広さだ。磁気嵐が止むまでの住処としては悪くない。
 メガトロンが適当な段差を見つけて腰掛けると、オプティマスもやってきて隣に座る。
 ブラスターを側に置いたオプティマスをちらりと見て、メガトロンが口を開いた。
「ずいぶんと重装備だな。喧嘩好きのスパークが騒いだか?」
「私を放って宇宙で迷子になっているような奴に仕置きするためにはこれくらい必要かと思ってな」
「話し合おうか、プライム」
 墓穴を掘ったメガトロンが言うと、オプティマスが目で先を促した。
「怒っているか?」
「あたりまえだ」
「俺は悪くない気分だった」
 オプティマスはわざと冷たい声で言ったのに、以外にもメガトロンは機嫌が良さそうに笑った。
「意識が繋がったと思ったら、あれほど会いたいと思っていたお前の顔が目の前にあったのだからな」
 肩を抱き寄せ、耳元で囁く。
「プライム……」
 口付けようとしたメガトロンの唇が、オプティマスの人差し指に押し留められる。
「私より戦艦が好きなんだろう? 熱く抱き合ったと聞いて嫉妬したぞ」
「心配させてすまなかった」
 メガトロンが素直に謝ると、オプティマスの厳しい表情が消え、堪えきれずにメガトロンに抱きつく。
「嘘だ。怒ってなどいない。だから気にするな。お前が無事でよかった」
「……お前、駆け引きならもう少しは長引かせろ」
 オプティマスを抱きとめたメガトロンはからかうように言ったが、オプティマスはくぐもった声で呟いた。
「お前が私のために払った犠牲に感謝する」
「俺もだ、プライム。俺を見つけてくれたお前に感謝する」
 メガトロンがオプティマスの体を自分のほうへ引き寄せる。両腕で抱きしめられないのがもどかしい。
「お前にはいつも救われるな……」
 メガトロンが呟いた。
 罪も、絶望も、希望も、喜びも、二人が出会ってから積み重ねたもの全てが混ざり合い、暖かいなにかとなって体を満たす。口に出さずとも、回路を繋げずとも、互いが同じ暖かさの中にいるのだとわかる。
 目がくらむような幸福感に包まれ、しばらく身動きもせずにお互いを感じていたが、ふと見られている気配を感じ、オプティマスが少し身じろぎしてメガトロンを見上げる。
 メガトロンが心配そうにオプティマスの顔を見つめていた。
「目はどうした」
 そう言われ、オプティマスはようやく自分の顔の事を思い出した。
「心配しないでくれ。お前の体を分解しない代わりに先ほどの種族に渡したのだ。おまえと交換なら安いものだろう?」
 笑いながら言ったが、メガトロンの顔はますます険しくなる。
 開いた眼窩も、むき出しのケーブルも、あまり見目のよいものではないだろう。
「気になるか?」
「いや」
 オプティマスの問いに、はっとしたようにメガトロンが答えた。怖い顔をやめ、今度は神妙な表情でじっとオプティマスの顔を覗き込んだ。
「愛しく思うぞ……」
 そう囁いたメガトロンの唇がオプティマスの唇に重なり、何度か軽く口付ける。オプティマスがもう一度口付けようとすると、メガトロンが意地悪をして顔を引いた。オプティマスが拗ねて目を細めると、メガトロンが少し強引に、深く口付ける。
 メガトロンの背に回したオプティマスの腕がもっと欲しいと言いたげにメガトロンの体を自分へ引き寄せ、メガトロンはその返答にオプティマスの背に回した片腕にぐっと力を込める。
 唇が離れると、メガトロンが遠慮がちに口を開いた。
「プライム。俺はまだ体がよく動かん。だから上手くお前を抱いてやれないと思うが……」
「かまわない。お前を私の中に感じるだけでいい」
 言葉を濁したメガトロンにオプティマスが言い、二人はもう一度口付けた。
 メガトロンがそっとオプティマスの体を横たえ、オプティマスは手を伸ばして自分の真上にあるメガトロンの顔を包み込んだ。
「珍しく落ち込んでいるな?」
「…………」
 メガトロンは答えず、オプティマスをじっと見る。
「優しくしてやるから、元気を出せ」
 そう言いながら、ぽんぽんと軽くメガトロンの頬を叩いた。
 オプティマスは、片腕やセンサーなどの機能を無くし、体の自由が利かないメガトロンを気遣って、銀色の体を自分の側へ横たえるようにと促す。
「今だけだ」
 メガトロンの不機嫌そうな返事を聞いて、拗ねるな。と言う代わりに優しく笑って抱きしめた。
「そうだな。お前の言うとおり、すぐにいつもの強いお前に戻ってしまう。だから、落ち込んだお前の側にいられるのは私だけだと自惚れてもいいだろう?」
 返事をしないメガトロンの手がぎこちなくオプティマスの体を求めた。ここだ。と小さく呟き、メガトロンの手を導く。
 長い時間をかけて愛撫しあった後、横たわったまま、お互いの足を絡ませるようにしてオプティマスがメガトロンを受け入れる。しばらく動かずに抱き合った。
 体を繋げ、抱き合って、あちこちに口付けを落とされるたび、オプティマスは身も心も伸びやかになって声を上げる。ゆるやかにメガトロンが動きはじめると、自分の内部でメガトロンがだんだんと存在感を増し、大きくなっていくのを感じて、嬉しさと歓びにまた声を上げた。
 優しい抱擁と緩やかな動きを重ねたその果てに、これまで感じた事のないほどの深い快楽がオプティマスを襲い、その快楽は一度では終わらずに、何度も何度もオプティマスはメガトロンの名を呼びながら全身を震わせる。
 やがて、体のどこを触れられても堪えきれず声を漏らすオプティマスの中にメガトロンも果てた。メガトロンが長い間自分の中へ証を放ち続けるのが誇らしく、オプティマスは求められる喜びに恍惚となって小さな声を漏らし、メガトロンはその声ごとオプティマスの唇を貪った。
 メガトロンが果てた後も離れがたく、体を繋げたまま抱き合って長い間を過ごした。何度も襲ってくる深く大きな快感と優しい感情を、洞窟に差し込む光に朝を知るまで与え合う。
 最後の口付けの後にメガトロンがそっと自分の体から離れると、オプティマスは、まるでハイパーノヴァだと呟いてメガトロンの自尊心を満足させた。
 いつもの激しさはないが、これまでかわしたどの交わりよりも優しさに満ち、深い快楽と充足感に満ちていた。
 ぎこちない動きも、ゆっくりとした愛撫も、常より素直なメガトロンも。その夜は、二人が重ねてきたたくさんの夜の中でも忘れられない夜となった。

 優しい気持ちで朝を過ごしていたオプティマスは、洞窟の入り口から黄色いクマが遠慮がちにこちらを見ているのに気がついた。
「どうした?」
 オプティマスが声をかけると、オプティマスの足元まで走ってきてさっと何かを差し出す。
「これはお前にやったものだ」
 差し出されたオプティマスの部品をそっと指先で押し返すと、黄色いクマは一生懸命目に手を当てる動きをした。
「返すと言っているのだから、好意は素直に受けておけ」
 二人のやりとりに気付いたメガトロンが部品を摘み上げ、オプティマスに向き直る。
「動くなよ。じっとしていろ」
「お前は器用だな」
「お前が不器用すぎるんだ。細かい調整は後でして貰え」
 せめて見た目だけでもと回路を繋ぎなおし、慎重に部品をはめ込むと、メガトロンは満足そうに元通りになったオプティマスの顔を見た。
 光を取り戻したオプティマスの青い目を見て、黄色いクマは万歳したままぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「ありがとう。お前は優しいな」
 オプティマスが礼を言うと、嬉しそうに手を振った後、黄色いクマはぱっと外へ駆け出していった。
 その陽気な黄色を見て、オプティマスはふとこの星に降り立つ前に見た夢を思い出した。鮮やかな黄色がときおり楽しそうに飛び跳ねながら遠ざかっていくのを見送ると、オプティマスはメガトロンに向き直り、改まった口調で言った。

「夢を見たのだが聞いてくれるだろうか」





        
初出 200905.24発行 Bumblebee's Diary+
2015.12.17 再録UP

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