Prime in Black








 オールスパークの外は、どんな世界なのだろう。
 幼い頃からずっと憧れている。
 そこには私の兄弟が居るのだと古いプライムたちが言っていた。
 外の世界が酷く荒廃しているのは、オールスパークの流れで判る。
 ある日突然に、たくさんのスパークが流星群のように降ってきた。それは途方も無い虐殺があった事を意味する。なにかとても悪い事がおきたのだと心を痛めながら、オールスパークに還ってきたスパークを導く。

 ディセプティコンズとオートボット。破壊を欲する一派と、守る事を信条とした一派の争いが始まった。流星群は止まず、星は荒れ果てる。
 私の兄弟は、オートボットの司令官という重責を背負い、戦いを終わらせるために自らの全てを犠牲にしているのだという。私も、オールスパークの調整者という自らの責務を全うしなければならない。
 そう自分に言い聞かせて、永遠のような長い時間を一人きりで過ごしてきた。

 古いプライムたちは言った。いずれ私の半身がやって来て、この深い孤独から救い出してくれる。オールスパークの中にやってきたそれを、永遠に私のものにして良い。だから、今は辛くとも耐えるのだと。
 プライムたちの言葉を信じ、まだ見ぬ半身の声や姿を夢想してはその日が来るのを待ちわびていた。
 
 古いプライムたちの言う通りだった。
 とても傷ついているが、美しく逞しいスパークが私に与えられた。
 再び蘇ることの無いスパーク。ずっと側に居てくれる。
 外の世界で破壊され、活動を停止したボディに影響を受け、そのスパークも目を背けたくなるほどひどい損傷を負っている。だけどここには交換する部品も、修復する技術も無い。
 私の体を使うしかない。そう思って体を繋げた。初めてだったが構わない。一目で恋に落ちた。どうしても目を開けて欲しかった。

 早く目を覚まして、私を見て欲しい。
 体を繋げ、自らの自己修復能力を使って根気よく相手の損傷を直しながら、子供のように楽しみにしていた。
 早く私の名を呼んで欲しい。オプティマスと。
 きっと、目もくらむほど嬉しいだろう。今よりもっと愛してしまうに違いない。
 幼い頃からずっと想い続けてきたのだ。
 私の事を気に入ってくれるだろうか? 期待と不安ではちきれそうになる。こんなに感情が揺れ動いた事は今まで無かった、

 少しづつ修復を進めていると、オールスパークの外からやってきたという、強い意志を持ったスパークが私の前に現れた。
 オールスパークの中で意識を保てる理由は、会った瞬間すぐに判った。
 その姿を見てひどく驚いた。相手も同じように驚いていた。
 同じ顔と同じ体、同じ名を持った私の兄弟!
 ただ色だけが違う。漆黒の体に金の炎を持つ自分に対し、兄弟は、鮮やかな赤と、目の覚めるような青。
 嬉しくてたまらずはしゃいだが、初めて会った兄弟は困惑していた。自分は孤児だと聞かされていたと。同時に生を受けたにも関わらず、オールスパークの調整者として外へ出る事を許されなかった兄弟がいる。その事実を知って衝撃を受けていた。
 何も知らなかったと謝り続ける兄弟の優しさに感激し、幸せの絶頂に居た。深い孤独に耐え続けた日々は、この良き日に終わりを告げる。

 おまえとも引き離され、私はずっと一人で辛く寂しかった。だがもう大丈夫。私には共に永遠を過ごしてくれる半身を与えられた。私がようやく報われる時が来た。

 そう言うと、兄弟の顔はもっと深く悲しみに沈み、とても気の毒そうに口を開いた。

「それは私のものなのだ。名をメガトロンという。私はメガトロンを探してここまでやって来た。どうか返して欲しい」

 これまで過ごしてきた長い時の中で一番悲しかった。

 奪うつもりならば、プライマスはなぜ私にメガトロンを与えたのだろう。
 古いプライムたちは、可哀想な私に夢を見せただけだったのか。

 あれほど会いたかった兄弟が、なぜ私を辛い目に合わせるのだろう。
 だが、私はお前を愛している。なぜならお前は私の兄弟だからだ。
 私そう言って、同じ顔をした兄弟に口付けた。






        
初出 2010.02.21発行 Infite Loop
2015.07.25 再録UP

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