Circle Game








 青い瞳が覗き込んだ顔は、目の光を失い動かない。
 左右の頬を大事そうに両手で包み込み、唇に軽く口付けた。
 口付けで命を吹き込まれたように瞳の奥に赤い光が点る。ぼんやりとした赤い目の焦点が定まり、覗き込む青い目に気付く。
「また来たのか、オプティマス」
 ねじくれ、壊れた鉄くずが唇をゆがめて笑った。
 オプティマスの手を離れて上体を起こし、難儀そうに壁にもたれかかる。
 誰よりも強く、美しかったメガトロンの体は無残に破壊され、惨めな姿をさらしている。
 胸に大きくあいた穴は醜く焼け焦げて溶け、手足はちぎれて立つ事ができない。
 不自由な体は人形のように足を広げて座らされ、オプティマスに動かされる事が無ければずっとそのままだ。
「俺が死んだと毎晩祝杯を上げているかと思いきや、そんな浮かぬ顔をしおって。今度は何がお前を悩ませている?」
 手を伸ばし、尖った爪の先でオプティマスの顎を持ち上げる。メガトロンがからかうように問いかけた。
 オプティマスは答えない。
 メガトロンに素直に身を任せながら、怒っているような、悲しんでいるような、そんな表情でメガトロンを見上げている。
「死んだのが俺で良かったとお前は言ったが、寄って集って無理難題を押し付けられて生きるより、俺と代わった方がましだったのではないか?」
 愛おしむように指の背で頬を撫でると、オプティマスが猫のように目を細める。
 従順なのではなく、内心ではメガトロンの言葉に怒っているのだと知っている。
 それを判っていて挑発する。触れて欲しくない場所を鋭い爪で引っかき、怒らせて、不機嫌に黙っているオプティマスから言葉を引き出す。
「どうせ人間とうまくいっていないのだろう。せっかく救ってやった虫けらが恩を忘れて出て行けと言ったか、あの小僧に冷たくでもされたかだな。人間などさっさと滅ぼしてこの星を乗っ取ってしまえ。悩み事が一つ減って楽になるぞ」
 メガトロンの思惑通り、青い目の奥に怒りの炎が揺らめき、オプティマスがメガトロンに飛び掛った。
 壊れた体は為す術も無く壁に叩きつけられる。脆くなっているのか、派手な音がしてひびが入った。
 オプティマスは噛み付くようなキスをして、抵抗しないメガトロンを好きに貪る。何度も深い口付けを交わすたび、オプティマスの目が濡れてくる。
 欲情したオプティマスがメガトロンの首筋にキスをした。抉れた胸の淵を舌でなぞって、亀裂が走り大きく破損した体のあちこちにもキスを落とす。キスをする場所がだんだん下り、オプティマスはメガトロンのそそり立ったものを咥えた。
「もう少し大事に扱え。腕も足も千切れているんだぞ。それに劣化が進んでいる。誰かが俺を念入りに爆破した上に海の底などという居心地のいい場所に捨ててくれたからな」
 メガトロンが皮肉を言うと、足の間に顔を埋め、夢中でメガトロンを愛撫していたオプティマスが顔を上げた。メガトロンに向かい合わせで抱きついて、じっと目を見ながらキスをする。
 オプティマスの口の中から自らのオイルを口移しされ、メガトロンは小さく不快そうな呻き声を出した。嫌がって顔を背けようとするが許さない。
 唇を離し、メガトロンのうんざりした顔を見ると、オプティマスは首筋に思い切り噛み付いた。
「痛ッ……」
 メガトロンが思わず悲鳴を上げ、オプティマスが自分で傷付けた個所を舌で舐めあげる。 
「酷い奴だ……。寛容の精神というものがまるでない」
「お前に関しては使い果たした」
 オプティマスは不機嫌な口調で言うと、メガトロンの首に腕を回した。
「抱きしめてくれ」
「やれやれ、注文の多い。こんな姿の俺をこき使うとは」
 口ではそう言いながら、メガトロンが優しく膝立ちのオプティマスを抱き寄せる。
 メガトロンがオプティマスの体にキスをすると、そのたびにオプティマスは小さく震える。
 尖った耳元に口付けると、オプティマスが思わず声を出した。舌を出して大きくなめ上げると、オプティマスが逃げ腰になる。
「あまりそこばかり触るな……っ!」
「相変わらず弱いな」
 意地悪く笑うメガトロンを軽く睨み付けるが、潤んだ瞳は逆効果にしかならない。
 初めて夢の中で交わった時は、記憶を失っていて、さんざん味わったはずのオプティマスの体のどこが感じるのかも判らなかった。
 今は記憶の全てを取り戻している。どこを責められると声を上げるのかも、なぜ夢の中でしか会えないのかも。
「プライム……」
 メガトロンがオプティマスの耳元で囁くと、それだけで体を震わせ感じている。たまらずに口付け、自分の体から伸ばしたコードをオプティマスに接続する。
 優しく、暖かな感情。激しく自分を欲しがっている欲望。
 オプティマスは全てを嘘偽り無くメガトロンに見せる。
 メガトロンが手を伸ばし、オプティマスの足の間でオイルを滴らせるコネクタをつかんだ。上下に擦ると、オプティマスが堪えきれずに声を出し、メガトロンの手の動きが早まるにつれてその声が高くなる。
 快楽にがくがくと震え、自分の体を支えきれずにメガトロンの首にしがみ付いた。
「出していいぞ」
「あ、あ、あ……ッ!」
「すごい量だな」
 メガトロンは声と共に迸ったオプティマスのオイルを手のひらで受け止め、まじまじと見ている。オプティマスは羞恥で体の熱が上がり、それを気付かれるのが嫌で気まずそうにメガトロンの上で体をもぞもぞと動かした。 
 ぺろりと手のひらのオイルを舐めとるメガトロンに、おずおずとオプティマスの顔が近づいた。
「メガトロン、中にもしてくれ……」 
 その言葉に応え、メガトロンの手がオプティマスの体を探り、探し当てた場所に指を埋める。
「あ……」
 声を出し、オプティマスの背が反り返った。
 固まった体を宥めるように、ゆっくりと出し入れする。オプティマスの出したオイルを指ですくい丹念に中に塗りこんだ。
「んんっ……」
 中でぐるりと指を回され、快楽に朦朧としてきたオプティマスの目がとろりと蕩ける。
「いいか?」
 短い言葉で問われ、オプティマスが頷いた。
「早く欲しい」
 オプティマスの欲望に濡れた視線がメガトロンのブレインサーキットにねっとりと絡みつき、オプティマスの体に入りたがるメガトロンが一回り大きく猛った。オプティマスはそれを愛おしそうに撫でると、根元に手を沿えて腰を落とし、ゆっくりと体の中へ受け入れる。
「ん……」
 オプティマスを求め硬く大きくなったものが、狭い場所を押し広げて侵入してくる。
「お前のがはいってくる」
 騎上位でメガトロンを受け入れながらひくっと体を震わせ、潤んだ目で呟く。
「奥まで繋げてやる。好きだろう?」
「好きだ」
 ため息を漏らすオプティマスの腰を掴んで押し付けながら、メガトロンが腰を動かした。
「ほら、繋がったぞ。判るか?」
「おまえが奥にあたってる。熱くて融けそうだ」
 頷いたオプティマスの頭を優しくなでると、オプティマスの奥の壁を突付き、擦ってやる。
 軽くイかされ、オプティマスがメガトロンにしがみ付いて声を殺して体を震わせた。
 快楽の波が引いたオプティマスが体を起こし、メガトロンの目をじっと見る。
「愛している」
「ん……」
 うっとりと満ち足りた声で言うオプティマスの顔を見て、メガトロンが頷いた。
 根元までメガトロンを受け入れ、オプティマスはゆっくりと腰を動かす。
 中に居るメガトロンをもっと感じようと、円を描くようにぐるりと腰を回す。中がメガトロンでかき回され、ねっとりと融けるような快感で腰が砕けそうになる。
「あっ……」
 甘い声を上げ、小さく腰を前後に動かせば、何度も気持良いところへ擦れて夢中で腰を振る。
 高ぶった体で大きく腰をくねらせて快感を味わうと、あまりの気持ちよさに耐えきれず動きが止まった。甘えるようにメガトロンに抱きついて少し休む。
「お前はすごくいい」
「俺はすっかりお前を満足させるための玩具だな」
 メガトロンが意地悪を囁くと。ぎゅっとメガトロンに抱きつくオプティマスの手に力が篭る。
「ほら、怠けていないで動け、プライム。自分ばかりではなく俺も喜ばせろ」
 メガトロンに命令され、オプティマスが腰を上下して大きく出し入れする。中で締め付けながらメガトロンを扱くと、メガトロンがたまらず呻いた。オプティマスのほうも、中で長くメガトロンが擦れるので気持ちいい。
 奥まで迎え入れると、最奥まで届いているメガトロンの先をこすり付けるようにぐりぐりと腰をくねらせる。
「お前の部下達に見せたいものだ。高潔なオートボットの司令官がガラクタにご執心な姿を」
「はぁ、あ。あっ。嫌……だ」
 想像してしまったのか、オプティマスの締め付けがきつくなる。
 素直に快楽を貪るオプティマスが愛しくてたまらない。その気持を隠そうとメガトロンはことさら意地悪くなる。
「わざわざ壊れた俺を欲しがるとは、オートボットは誰もお前を満足させられんのか?」
「だ……まれ」
 オプティマスの唇の間から悔しそうに言葉が漏れた。
「どんな姿になろうと、お前、でなければだめなのだ……」
 メガトロンを見つめる瞳が潤み、オプティマスは快感に声を上げそうなのを堪えて絶え絶えに言うとメガトロンにしがみ付いた。
 愛しくて愛しくて、オプティマスを抱きしめるメガトロンの腕がかすかに震えた。
「プライム、俺が悪かった。こっちを向いてくれ」
 メガトロンが慌ててオプティマスに許しを請うと、オプティマスはゆっくりとメガトロンの肩から顔を上げる。
「プライム、愛している」
 拗ねた表情でメガトロンを見上げたオプティマスに向かって、心から言った。
「どうか、キスを」
 丁寧な懇願に、オプティマスがメガトロンの両頬を手で包み込み優しいキスで許しを与える。
 体を繋げたまま、長く優しいキスを交わし、お互い見つめあう。言葉は無く、繰り返すキスと見つめ合う瞳で愛を交わす。
「いきたいか?」
 やがてメガトロンが小さく囁くと、オプティマスがこくんと頷いた。
「一緒に……」
 オプティマスが甘えたように言うと、メガトロンの手がオプティマスの腰を掴み、力強く突き上げた。
 体の中を一気に貫かれ、甘く痺れるような快感が背筋を這い登る。
「あ、あ……」
 突き上げられ、オプティマスの体がリズミカルに跳ねる。体の奥を突かれる度に、オプティマス自身の先からオイルがとろとろと漏れる。
 メガトロンの動きが早く激しくなり、オプティマスの唇を強引に求める。
「ん」
 重なる唇の隙間から、オプティマスの苦しげな声が漏れた。
 舌を絡ませあい、きつく抱き合い、下半身を繋げてかきまわす。お互いに回した手の力が強くなり、快感の波が寄せて返すたびに大きなうねりとなっていく。
 上へ上へと追い上げられていくオプティマスの体がメガトロンをしめつけ、猛り狂ったメガトロンの責めに歓ぶ。
「メガトロンっ、メガトロン、もう、あ、あっ! もう、イくっ……!」
 小さな悲鳴と共にオプティマスの体が収縮し、背をそらしてビクビクと痙攣した。
 あまりにも長く、大きく痙攣するので、どうにかなってしまったのかと怖くなるほどだった。ブレインサーキットが焼ききれるかと思うほどの快感を味わい、少し波が引いたかと思えばまた勝手に体を痙攣させて声にならない声を上げる。恥ずかしいと思うが止められない。
「お前の。あ、中で出ている……。熱い。すごいぞ、こんなに」
 体をひくつかせ、うわ言のように呟く。メガトロンがドクドクと脈打ち、オプティマスの体の奥にオイルを吐き出す感触が生々しく広がる。自分の体でメガトロンが果てた満足感と喜びに浸った。
 メガトロンがコネクタを引き抜くと、二人のオイルが入り混じったものがオプティマスの中からとろりと毀れ、太腿を伝う。メガトロン自身もオイルに濡れてぬめぬめと光った。
「まだ硬いな……」
 先ほどまで自分の中に入っていたものを愛おしそうに眺め、オプティマスはいきなり根元まで咥える。
 じゅるじゅると音を立ててメガトロンにまとわりつくオイルを啜り、舌で舐め上げて綺麗にする。
「何に怯えている?」
 不意にメガトロンが言った。
 貪欲にメガトロンを求め、刹那の快楽にのめり込むオプティマスが心の奥底に隠している不安をメガトロンは見抜いていた。
「お前がいなくなるのが怖いのだ」
 オプティマスの返事を聞くと、急にメガトロンが動き、オプティマスを床にうつぶせに押し付けた。
「ダメだ! 少し待って……休ませてくれ。欲しいなら口でする!」
 メガトロンの欲を察し、オプティマスが悲鳴を上げる。
 メガトロンはオプティマスをうつぶせにしたまま、腰を高く上げた四つんばいの姿勢をとらせた。
「今は体が感じすぎてしまうからだめだ」
 オプティマスの必死の言葉を無視して、メガトロンの舌がオプティマスの敏感な部分に触れた。
「く……!」
 オプティマスが声を上げた。
 先ほどまでメガトロンを受け入れていた場所を舌でこじ開けられ、ぴちゃぴちゃと音を立てて中のオイルをなめとられる。その音がたまらなく恥ずかしい。
 舌を差し入れてくにくにと動かされ、中に溜まったままのオイルを吸われると、オプティマスの手が拳を作り、ぎゅっと強く握られた。
 四つんばいのままひくひく体を震わせて絶頂を迎える。
「酷い……ぞ、待ってと言った。っ……!」
 オプティマスがメガトロンを睨み付けるが、まだ甘く痺れるような快楽の余韻が残るオプティマスの体にメガトロンは容赦なく挿入する。後ろから激しく腰を打ち付けられ、羞恥と快感で何も考えられなくなる。
「くぅっ……! ああっ。はぁ……っ! ああっ」
 上り詰める寸前でメガトロンが動きを止めて引き抜き、強引にオプティマスを仰向けに転がした。
 オプティマスの上に覆い被さり、赤い瞳でオプティマスを見下ろす。
「考えるな。狂え」
 それだけ言うと、再び体を繋いでオプティマスを突き上げた。
 オプティマスの目に涙が溢れた。
 不安を忘れようと快楽に狂うオプティマスと、忘れさせようとするメガトロンの体が重なり合う。
 メガトロンはオプティマスの涙に構わず、オプティマスの体の奥深くに繋がろうと侵入してくる。
「海の底に沈んだお前の体が朽ちれば、お前は消えてしまうのか?」
「考えるな」
 メガトロンの言葉に、オプティマスが怒りの篭った目を向けた。
「また私の前から消えるつもりか」
 メガトロンの不審な態度を敏感に察知し、オプティマスが怒りを募らせる。
 あの時もそうだった。ささいな違和感が始まりだった。
 また私の心を殺すつもりか。
「許さんぞ」
 激しい言葉が漏れた。
 口付けが減ったのを気のせいだと言い、考えるなと言い、やがて、私に触れなくなった。
 メガトロンが道を踏み外したことに気付かなかった。
 辛い記憶を呼び起こされ、快感と胸の痛みがない交ぜになる。
「お前は私のものだ」
 二度と会えないと思ったメガトロンをオールスパークの中で見つけた時、どれほど嬉しかったか。
 メガトロンとのささやかな逢瀬がどれほどオプティマスの支えとなっていたか。
 オプティマスの目から溢れた涙が目じりを伝い、落ちた。
「可哀想に」
 メガトロンがようやく口を開く。目に哀れみの色を浮かべ、オプティマスの涙を優しく指の背で拭った。
「夢でしか満たされぬお前にいい事を教えてやろう」
 オプティマスが魅入られた、甘く、優しい、意地の悪いメガトロンの声。
 その声がオプティマスに囁いた。
「もうすぐ、俺は目覚める」







        
初出 2010.02.21発行 Infite Loop
2015.07.25 再録UP

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