Megatron tale F ver
何か欲しいものはあるかと睦言を囁いても十分満足していると言うのが常だったプライムが、スリープモードに入る寸前の俺に何かをねだった。
プライムが小さく囁いた願いが何だったのかどうしても思い出せない。
仕方なく俺はもう一度プライムに尋ねた。
「何が欲しい?」
プライムはこれまで何回となく聞いた返事を寄越した。
「お前がいればなにもいらない」
お前はなにか欲しいものがあるはずだろうと言うと、プライムは首を振って忘れてくれと言った。
それは私には得られぬものらしいからいいのだと、諦めているから言いたくないのだと、プライムは頑として望みを口にしなかった。
俺は苛立ち、ならばお前が欲しいと思うようなものを見つけてくる。それまで戻らないと言い捨ててプライムの元を去った。
一人になった俺の前にフォールンが現れた。懐かしいかすれた声がオプティマスを捨てて昔のようになりたいのかと囁き、指先で俺の顎を持ち上げる。
俺が捨てたはずの欲望が再び俺に囁く。
「牙を抜かれた哀れな弟子よ、お前の体に溜まった不満の澱をすべて飲んでやろう。破壊の快楽を思い出し、今度こそ宇宙をお前のものにするがいい」
無遠慮に俺に触れるプライムとは違う手の感触に不快感を覚え、俺はフォールンを振りほどいた。
「悪くないが、その宇宙にプライムは居るまい? マスター、貴様はすでに俺の過去だ。解けた鎖に価値は無い」
そう言うとフォールンは激怒し、俺に詰め寄る。
「情けない。宇宙の支配者たらんと猛ったメガトロンは腑抜けに成り下がった。オプティマスが望むものはお前を腐った世界に縛り付けるだろう。お前は自分を殺してこの先何千億年も惨めな生を送るだろう」
罵声を浴びせるとフォールンは姿を変えた。昔の俺へと。
「破壊の本能を取り戻すか、さもなくば死ね」
そう叫び、宇宙を手に入れんと望みプライムを裏切った頃の俺が咆哮を上げて飛び掛ってくる。
戦いは長引いた。装甲は砕かれてひびが入り、ボディを大きく抉られ火花が散る。融合カノンを使いすぎたせいで内燃機関が爛れ、活動限界が近づいてきたときに、俺は過去の幻影を地面に叩き伏せた。
過去の俺と現在の俺、同じ俺であるならば、執念の強い方が勝つだろう。
「今の俺のほうが強欲であったようだな」
俺は笑った。過去の俺が欲したのは宇宙だけだったが、現在の俺は宇宙もプライムも望んでいるのだから勝てぬはずがない。
過去の迷いを殺した俺は、唐突にプライムが欲しがっていた物を思い出した。同時に、なぜプライムが望みを俺に伝えなかったのかを理解した。
プライムが欲しがったものは、俺を平和とやらに縛り付ける。
自分の望みがきっかけとなり、俺が過去の欲望を思い出して引きずられるのではないかと恐れたのだ。
プライムの口を閉ざさせたのは俺の罪だ。俺は罪を償わなければならない。
しかし、プライムの望みを叶えるためにはもうひとつ難問が有る。
藪医者どもが、俺とプライムの間に新しいスパークは授からぬとぬかした。
与えられぬのなら奪えば良い。
先ほどの戦闘で少し機能は落ちているが、プライマスから新しいスパークを一つ奪うくらいはできるだろう。
俺がそれをどうやって手に入れたかを知れば、真面目で正しいプライムは怒るかもしれんが、これが俺のやり方だ。俺は俺で無くなったわけではない。
とにかく俺はプライムの願いを叶えなければならんのだ。
終
20090524(初出 Bumblebee's Diary+)
20130121 再録改定版 UP
ばんぶるびー誕生前のおとうさん。
アップしようと思って久々にパソコンからファイル探したら、差分(リベンジ前に書いたものをリベンジ後バージョンで書きなおしていた)があって、書いたこと完全に忘れていたのでびっくりしました。