さいくろなーす 第一話









 ピンと立った二つのうさ耳。

 柔らかなすみれ色の鋼鉄ボディ。

 くびれた腰に、二枚の翼はあなたが逃げても捕まえられるように。

 白に赤十字を染め抜いたナースキャップ。

 そう、彼女(?)こそが、ガルバトロン専用看護婦、さいくろなーすである!


 ぴしりと身だしなみを整え、背筋を伸ばし、病院の廊下をヒールの音高く行く看護婦が一人。

 後姿は完璧なスタイル、注がれるオトコの熱い視線、賞賛と誘いに吹かれる高い口笛。

 極度に潔癖症の、殺意の篭った赤い眼がぎろりと睨む。鉄拳制裁を恐れ慌てて顔を背けるような不甲斐ないオトコごときに気安くされるなど一生の不覚。

 この身も心もガルバトロン様のもの。穢れた目で見るなど許さない。

 固く貞操を守っているさいくろなーすにうかつに近づき、血祭りに上げられたオトコは数知れず。

 柳眉を吊り上げ赤いツリ目に鋭い光。唇ヘの字に引き結び、さいくろなーすが今日も行く


 やって来たるは特別室。

 あなたを守る鋼鉄の、ホントは逃がさぬための壁。

 逃げるあなたを溶岩風呂に叩き込み、壊したいなら私を壊して。だけどあなたは逃がさない。

 VIP室という名の隔離病棟。 


 いつもの日課をこなそうと、さいくろなーすが病室のドアを開ける。

「ガルバトロン様〜、朝の」

 ……と、言いかけたときに目に入ったのは、シーツを頭から引き被った病室の主。

「が、ガルバトロン様、お加減がよろしくないのですか?」

 急いで駆け寄り、カルテを胸に抱きしめながら枕元で叫ぶ。

 返事の代わりに、シーツからにゅっとガルバトロンの腕が出てきて、サイクロナスの首の後ろに回された。

「うおっ!」

 思わず低い驚きの声をあげる。逆らえぬ強力でシーツの中に引きずり込まれ、じたばたするがすでに手遅れ。

「ガ、ガルバトロン様、そんな、朝から、いけません!!」

 

 堕ちたのは暴力のせいじゃないあなたのくちづけのせい。

 だめだだめだと思っても、シーツの中で暴れる足が、大人しくなる悲しい定め。

 乱暴で、一方的な求め受け入れすすり泣き。あまつさえ、求める声の浅ましさ。

 悲鳴の変わりに規則的にベッドがきしむ。


 情事の果てのさいくろなーすを照らすのは、すでに高い日の光。

「で……。朝のなんだ、サイクロナス?」

「朝の検温を……」

「もう昼だな」

 容赦ない言葉に、ウウッと泣き崩れたさいくろなーすであった。


 散らばるカルテは乱れた心。

 嗚呼今日も果せなかったと看護日誌に涙が滲む。


 今日のさいくろなーす ●





初出 日記 20070930
20071005 UP


おまけ

さいくろなーす支援

同室のブリッツウィング君とアストロトレイン君

「アストロトレイン、お前さ、マジでサイクロナスのこと好きなの?」
「うん、やりたい」
「……それは俺が思うに性欲なんじゃないの?」
「愛だって」
「じゃ、あの黄色くてちっこい看護婦さんは?」
「突っ込みてぇ」
「あの、可愛い耳と端正な口元のギャップがエロいポルシェな看護婦さんは?」
「突っ込みてぇ」
「……目ェ覚ませ。お前の気持ちは恋じゃなくて百パーセントやりたいだけだ」
「うるせぇな。今の俺は恋モードにチェンジしてるんだよ」
「(死ぬほどうぜー)」
「サイクロナスかあ……、確かにイイ体してるんだけどな。電気を消したら…まあなんとか…」
「俺は真昼間に正上位でサイクロナスとやりたいんだが」
「お前、ホンモノかもしれん」



初出 日記 20071005


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