Optimus Prime










 最初のプライムは、年上にしろ。

 幼馴染をプライムに選び、それ以来ずっと相手を変えたことの無い父親に言われた。

 成人すると同時にプライムを娶った父親は、家を持つために死ぬほど働いたのだと息子に語った。

 プライムはすぐにお前を身ごもったから、死に物狂いだったと。

 幸い村一番狩りが上手かった父親は、周りが年若すぎる夫婦をなにくれと助けてくれたこともあり、子供が生まれるまでに家を持ち落ち着くことができた。

 そんな若くに家を建てる奴は俺以外にいなかったと自慢する。

 今では村でも豊かな家の一つとなり、父親はディセプティコンズの長となって皆から尊敬されている。

 すでに自分の家を持っている年上のオプティマスがいい。財力もあれば知識も経験も豊富だし、未熟なお前に何かと良くしてくれるだろう。

 尊敬する父親からそう言われ、なんとなく頷いたが、自分がプライムを娶るなんてまだ考えたことがない。仲間たちと狩に行く方がずっと楽しいし大事だ。

 第一、成人したオプティマスは自分たちだけで固まっていてなんだか話しかけにくい。たまに数人のオプティマスが意味ありげにメガトロンたちを見ると、年上のメガトロンたちはいそいそとそちらへ行き、気に入った二人で森の奥へ消えていく。

 それが狩の途中だと最悪だ!

 熟練した年上がいなくなると、未成年のメガトロンたちだけでは狩は難しい。苦労して中くらいの大きさのクインテッサをしとめたが、狩より大事な事とはなんなんだと皆でぶうぶう文句を言った。

 父親に今日あった出来事と文句を話すと、大笑いされてお前も成人すれば判るようになると言われた。母親は、お前は成人の前にすでによく知っていたようだがな。と言って父親を凍らせた。

 あれから時が過ぎ、大人たちが何をしているのかうすうす判り始めた頃、息子は父親に呼ばれた。

 お前は、成人の条件であるデバステーターを狩る事が出来た。次に煌天が来た時に、お前を成人としてディセプティコンズに入る事を認める。

 そう言われて有頂天になった。小さい頃から大人たちの体に刻まれたシンボルを羨ましく見上げていた。あれがとうとう自分のものになるのだ。

 母親は少し考えて、この子の相手はオートボッツで相談して決めると父親に言った。父親が頷くと、オートボッツの話し合いに行ってくると家を空けた。

 プライムがお前が初めて抱く相手を決めてきてくれるが、ずっと年上の経験豊富なオプティマスが選ばれるだろう。やり方を知らなくても教えてくれるし、優しくしてくれるから安心するように。たとえ失敗しても恥ずかしくはない。

 せっかくの父親の忠告だったが、あいまいに頷いた。

 実はもう知っているからだ。

 一人で狩をしていた時にばったり会ったオプティマスに誘われ、そのまま。

 最初は、こんな所になぜ一人でいるのだろうと不思議だったが、後から自分を待ち伏せていたのだと知った。

 恋人には内緒だと言って、いろいろな事をしてくれた。本当は、ディセプティコンズに入るまではオプティマスを抱く権利が無いので、大人たちに知られれば半殺しは免れない。

 成人と認められ、ディセプティコンズに入る事を許された時に、村を支える義務とプライムを選ぶ権利が与えられる。

 抱いてもいいオプティマス、抱いてはいけないオプティマス。闇に紛れて閨に忍び込む時には、断られたらすぐに引き下がること。結婚が決まっているオプティマスの所へ行ってはいけないが、プライムとなってからは自由。家を出る前のオプティマスを夜這うには、家長の許しが無いといけない。そんな掟をディセプティコンズの年長者から聞かされる。

 その時再び言われた。最初のプライムは、年上にしろと。

 いつまでもプライムを選ばないと、何をしているのだといい顔をされないが、一度プライムを選んだものが関係を解消するのは珍しい事ではない。

 相手を探しているオプティマスとは全員と寝る者、すぐにプライムを変えてしまう者などメガトロンにもいろいろいる。オプティマスのほうも、プライムでなくなった者はまた新しい夫を探し、複数のメガトロンを相手にしている未婚のオプティマスに子が出来れば、オプティマスはその時一番気に入っているメガトロンを選んでプライムとなる。そのような事を繰り返し、やがて自分に合う相手を探して落ち着いていく。


 成人の儀式として、体にシンボルを刻む激痛に耐えると、ようやく一人前としてディセプティコンズへの加入を認められた。

 久しぶりに執り行われた成人の儀だというのに、成人を迎えたオプティマスは一人、メガトロンは二人だった。エネルギーが枯渇するにつれて、どんどん子が出来なくなっていると賑やかな昔を知るものが嘆く。エネルギーを求めて外へ旅に出る者も少なくないが、結果は芳しくない。

 昼の儀式が終わり夜になると、オートボッツとディセプティコンズに分かれる。

 年上たちに冷やかされながら二人のメガトロンは村はずれの集会所に向かった。

 オートボッツが選んだ二人のオプティマスがすでにそこで準備を整えていた。父親の言ったとおり、ずっと年上の二人が新成人を迎え入れ、自分の相手はどちらなのだろうと心をときめかせる。

 二人のうちの一人が、近くに住んでいる、とても仲のよい夫婦のプライムなのに気付いて動揺した。自分には子がいないからととても優しくしてくれたその人は、隣のメガトロンの手を取り、奥へ消えていく。ほっとしたような、残念なような妙な気分だった。

 自分の相手は、村はずれの大きな家にひっそりと住んでいて、あまり姿を見かけないオプティマスだった。今まで沢山のメガトロンに求愛されているのに、不思議と、誰のプライムにもならないのだという噂を聞いている。

 二人きりになると、オプティマスから口頭で簡単な文句を教えられた。それを覚えて、決められた順番で文句を唱える。おそらく緊張を解すためにあるのであろうその儀式を終えると、あとは頃合を見て契っても良いか? と聞くだけだ。そうすれば、形ばかりしょうがないと言って閨での手ほどきをしてくれるのだと大人たちは言っていた。

 初めての相手は、ただ性技が巧みであるというだけでなく、後々まで相談相手になってくれるような人格者が選ばれる。

 村で一番の暴れ者のメガトロンが自分の母親に頭が上がらない理由がやっと判った。きっと母親が始めての相手を務め、いろいろな事を教え込んだから逆らえないのだ。

 目の前のオプティマスは、他のオプティマスに比べてどこか控えめな印象を持った。誰のプライムにもならないのはどうしてだろうと思った。相手を探す事を楽しむオプティマスたちから離れ、一人寂しげな姿に心を惹かれるものは多く、多くのメガトロンたちにプライムにと望まれたが、首を縦に振らない。プライムになるどころか、家にずっと鍵をかけてどのメガトロンも招き入れないのだという。

 小さな明かりに照らされ、目を伏せている姿は、初めて相手をしてくれたオプティマスよりずっと妖艶で色っぽく見えた。

 沈黙に耐えきれず、何か話したほうが良いのかと思って口を開こうとすると、そっと顔に触れられた。自分と違う青い瞳で覗き込まれると、ドクドクとスパークが脈打ち、体の一部が反応する。

「お前も父親と同じか確かめてやろう」

 低い声で囁かれた。返事をする前に唇をふさがれ、押し倒される。

 抱き合って口付けを交わしながら、体勢を逆転する。体中に口付けを落としていると、小さな声で指示を受ける。ここを外すんだ。そう。そこを触って、優しく……。焦らなくていい。

 自分を気遣う優しい声が心地よかった。

 好奇心の赴くままオプティマスの体を愛撫し、オプティマスも優しくメガトロンの体に愛撫を返した。いきなり咥えられると、堪えても情けない声が漏れる。疲れたのか、オプティマスが口に含んだものを少し離した隙に、我慢できず組み伏せた。指示を受ける前に、細いケーブルを接続し足を左右に押し広げる。繋ぐと一言言い捨ててぐっと密着させた腰を突き出した。

 卑猥な音と共に体の奥にコネクタを差し込まれ、オプティマスが漏らしたくぐもった声に明らかに快楽が滲む。嬉しくて唇を求める。勝手な事をと怒られるかと思ったが、オプティマスは優しく舌を吸い、突き上げられゆさゆさと動くたびに切ない声を上げた。

 オプティマスの体を味わう術をすでに知っている事で、経験の無さゆえにこの極上の体を持て余すという愚を犯さずに済んだのをプライマスに感謝した。

 何度も突き上げ、中に放っても勢いは衰えず、抜かずに二度三度と相手をしたオプティマスがとうとう休ませてくれと悲鳴を上げる。

 快楽の余韻に体をひくつかせ、ぐったりと倒れこんでいたオプティマスがゆっくりと体を起こした。

 若い固体にはもっと微弱なパルスの方がいい……。受け止めきれなくて痛いだけだ。

 忠告に素直に頷く。

 それにしても、お前に教える立場の私がおまえにこんなに歓ばされてしまうとは……。きっとみんなお前を欲しがるぞ。

 優しく笑った姿にまた欲情すると、奥から声が聞こえた。「馬鹿、がっつきすぎだ!」

 次いで制裁を受けたらしい派手な音がして、二人で顔をあわせて苦笑いする。本当に初めてなんだ、奴は。でも、優しいあの人なら上手く教えてくれるだろう。そう思っていると、じっと見られているのに気がついた。

 おまえは初めてじゃないな。もう私が教える事などないか?

 意地悪く囁かれ、あわてて何のことだと誤魔化した。

 初めてだし判らない事だらけだ。今すぐ教えてくれ。

 そう言うと嘘つきだなと頭を小突かれたが、オプティマスは自分を求めた手を振り払いはしなかった。

 交わりと交わりの間に、オプティマスはいろいろな事を教えてくれた。どこをどうすれば歓ぶのか、村にどういう掟があるのか。年上のメガトロンからすでに聞いた話もあったが、オプティマスから聞くとまた違う。

 夫が旅に出ているものや、夫を亡くしたプライムの元へは良く通ってやるようにと言われた後に、沈黙が二人を支配した。話題が途切れたのを見計らって、思い切って聞いてみる。

 俺の父を知っているのか?

 オプティマスは頷いた。

 私の初めての相手がおまえの父だった。

 もっとお前の事を知りたいとせがむと、聞いてもしょうがないだろうと首を横に振った。抱きついてキスをし、お前のせいで疼くのだという場所にコネクタを差し入れて揺さぶり、快楽と甘い言葉で宥めすかして重い口を開かせる。

 絶対に誰にも言わない事を約束すると、寝物語にオプティマスは自分の事を語り始めた。

 私は少し変わっていたから、皆が心配してくれて、初めての相手には一番上等なメガトロンを選んでくれたのだ。ずいぶんと羨ましがられたぞ。

 子供だったがゆえに嫌がる私に、お前の父は、優しく、根気強く、心と体に、これは気持ちいい事なのだと教えてくれた。私の体を良く訓練してくれたから、お前の父以外の相手にもずいぶんと気に入ってもらえもした。初めて抱いてもらってから今まで、一人でいる私を心配してお前の父はいろいろと良くしてくれた。

 嬉しかった。とぽつりと呟いた。

 ずっと好きだったのだ。幼い頃から、ずっと。

 オプティマスの顔に浮かんだかすかな笑みに、胸が痛くなった。どうしてだか判らない。

 あの一夜で夢は全て叶ったのだからもう望むことは無いと思っていたのは間違いだった。むしろ、あの夜から苦しみが始まった。幸せが欲しいのなら、私はお前の父に抱かれるべきではなかった。

 だが後悔はしていない。

 忘れようと思って、他の相手を探した事もある。それが無理だと判って、今度はがむしゃらに働いた。私はとても豊かになった。

 でも、ふと見上げた月があの時と一緒で、私の気持ちは何一つ変わっていなかった。それに気付いた時、こんどこそ本当に忘ようと決心した。

 私は、今夜誰かを受け入れる意志があると、目印のエネルゴンのかけらを外に吊るした。鍵は開いているという意味だ。判るだろう?

 最初に来たメガトロンを愛し、一緒になろうと思った。そうしたら……。

 オプティマスの言葉が途切れ、そうしたら? と先を促した。

 来たのは、お前の父だったんだ。

 ……親父は俺が後で叱っておく。

 そう聞くと、オプティマスはクスリと笑った。痛みも苦しみも受け入れて自分のものにした綺麗な笑みだった。

 あれほど嬉しくて、あれほど自分が滑稽だと思ったことは無い。

 自分の気持ちから遠くに逃げたと思っていたのに、くるっと回って一回転していただけなんだと思うと笑い泣きした。

 それから私は全てを諦めて、生きたいように生きている。

 話を聞き終わり、俺の父親がおまえの気持ちを弄んだ事を恨んでいるかと聞くと、あの人は悪くないのだ。多分私の気持ちを知らなかったからと呟いた。

 知らないというのも罪だと思ったが、口には出さなかった。

 あの夜は、たまたまお前の母がお前を連れて村を出ていた。私はそれを知らずに合図のかけらを吊るして、たまたまお前の父がそれを見て、一番最初に私の元へ来てくれた。

 プライマスに、これがおまえの運命だと言われた気がした。

 思い出話の後に、オプティマスは誘った。

 家を出たければ、私のところへ来るといい。

 私をプライムに選んでくれずともいい。私はおまえを縛らない。自由に相手を探してくれ。私はお前を気に入ったから、気が向いた時に抱いてくれればそれでいい。

 おまえがよければ、だが。

 そう言われて頷いた。一瞬、両親の承諾を得るべきかと思ったが、もう成人なのだからと自分で決めた。

 毎日でも抱いてやると囁いて、哀れで強いオプティマスに口付けた。

 ただ一人しかオプティマスの深い孤独は埋められない。そしてそれは自分ではない。その事がどんなに自分を苦しめるのかをまだ知らなかった。

 傷つき傷つけて、痛みを味わい、許し会えた頃、ディセプティコンズの長の息子は、村はずれのオプティマスの家を出て自分の家を持った。

 それから程なくして、二人目のプライムを娶ると父から伝えられ、誰のものにもならなかったオプティマスがオプティマス・プライムとなる事を知った時、ディセプティコンズの長の息子は成人式の夜を思い出した。 






家は買って貰った。

メガオプ村……大人も子供も兄も弟も構成員が全員メガ様とオプティマスの村。
オートボッツ……成人を迎えたオプティマスが入る集団
ディセプティコンズ……成人を迎えたメガトロンが入る集団
プライム……結婚したオプティマスに与えられる称号

そんな感じ。


どうでもいいけど私の中でメガオプ村妄想は二年前からやっていて年季が入っています。これはいろいろな妄想のうちの一つ。

20090629 UP

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