透き通り、輝くブルーの水溶液が満たされたカプセルに、コードを体中に接続されたアイアンハイドが仁王立ちしている。
ラチェットがそのカプセルの前に立ち、アイアンハイドを見上げた。
敵を容赦なく破壊する太い腕に、しっかりとアイアンハイドを支え、時には信じられないほど早く動く逞しい足。どっしりと力強いその姿は、目にするだけでオートボットに安心と勝利の確信を与えてきた。そしてアイアンハイドもみなの気持ちを裏切らない。
よく見れば、アイアンハイドの右手だけ、全体の形状から浮いているのに気がつくはずだ。
ラチェットの左手が、エネルギー補給と負傷箇所の回復を促進するカプセルからアイアンハイドを目覚めさせるよう操作する。
ブルーの水溶液が排出され、バシュッ! バシュッ! と音を立ててアイアンハイドに接続されたコードが次々にイジェクトされる。
ゆっくりとアイアンハイドの意識が目覚める。
目覚めて始めに目にしたラチェットの姿から、アイアンハイドは全てを理解した。
ラチェットを、そして自分の右腕を見る。あるべきものがそこにはなく、なかったものが自分にある。
アイアンハイドに新しく取り付けられた右腕は、ラチェットのものだったのだ。
「ラチェット……」
「そんな顔をするな。私なら平気だ。多少不便だがね」
沈痛な面持ちで、悲痛な声をあげたアイアンハイドに、ラチェットはあっさりと言って、軽く片腕しかない肩をすくめた。
アイアンハイドからわざとらしく目をそらし、ラチェットはアイアンハイドの失った武器の変わりに急いで作ったキャノン砲を取り出した。
「言いたい事があるなら後にしてくれ。お前にはやるべき事があるはずだ。お前を起こした理由は判るな? あと十分でディセプティコンと交戦する」
アイアンハイドは、片手で自分に武器を装備させようと悪戦苦闘しているラチェットを無言で見つめていたが、手を伸ばし、ラチェットが扱いかねているキャノン砲を自分の手で装備した。ラチェットは手を離し、アイアンハイドの目をじっと見つめる。
「武器はありあわせのもので作った。お前好みであればいいんだがな。あとは実戦で使いながら馴れてもらうしかない。できるだけの調整はした」
一呼吸置いて、ラチェットは再び口を開いた。
「なにか問題はあるか、アイアンハイド?」
アイアンハイドは、キャノン砲の取り付けられた自分の右手の感覚を確かめるように、手を握ったり閉じたりしている。感覚の違和感は全くない。使えば強度なども違うのだろうが、今のところ、見た目が違わなければ完全に自分の腕だと思ってしまうくらいだ。ラチェットの「できるだけ」という言葉は「ほぼ完璧に」と置き換えてもいい。仕事の出来に比べて、ずいぶん控えめな単語を選んだものだ。
「問題ない。おまえの仕事は完璧だ」
満足そうに頷くと、アイアンハイドは自分を見つめるラチェットと目を合わせ、情感のこもった眼差しでじっと見つめる。
「ラチェット、感謝するぞ」
その声は、最初の戸惑いから完全に脱し、ラチェットへの感謝と尊敬に溢れていた。
言いたい事はたくさん有る。だが今はそれを言う時ではない。生きて帰って、安全なアーク号のラチェットの部屋でじっくり問い詰めるのだ。
「私は私の仕事をしたまで。次はおまえの番だ」
「判ってるさ。おれたちの前に立ちふさがるくそったれのディセプティコン野郎を全部スクラップに変えて、全員でアーク号へ戻る!」
濡れた鋼鉄の体が熱を持ち、アイアンハイドの体から立ち上る蒸気が、まるで揺らめく闘志を纏っているかのように見えた。
我々がいかに劣勢であろうと、勝つに違いないとラチェットは確信した。
オートボットの闘神に火がついたのだから。
アイアンハイドの雄々しい姿にラチェットが見とれていると、急にアイアンハイドがラチェットの首に腕をかけ、ぐいと引き寄せた。
抵抗するまもなく強引に口付けられる。
戦いの前の誓いのような、荒々しい口付け。
「続きは後だ! ラチェット。この件に関しては、アーク号のお前の部屋でじっくり問い詰めさせてもらうぞ!」
すぐにアイアンハイドは唇を離し、あっけにとられているラチェットに向かって言った。
くるりと背を向けると、アイアンハイドの頭の中にすでにラチェットは無い。
闘争心がアイアンハイドの中でたけり狂う。
アイアンハイドの中にあるのは、ディセプティコンを蹴散らし、勝利を得る事のみ。
それが全て。
無事アーク号へ戻れた事に、オートボットの皆はちょっとした祝宴を催した。
ジャズがバンブルビーを相手に、「俺の最高にかっこよかったシーン」を何度も再現したり、オプティマスの何気ないジョークが異様に冴えていたり。今回の戦いで見せた、アイアンハイドの鬼神のごとき戦いぶりはオートボットの伝説になるとバンブルビーが腕を振り回して大熱弁をふるい、アイアンハイドが照れるのを皆で冷やかしたりした。
先ほどまで全滅の危機にあったというのが嘘のように騒ぐ。オプティミズムこそが長い長い旅を続ける秘訣だ。彼ら全員が、どんな中でも楽しみを見つけることを忘れなかった。
飲むとちょうど人間が酒を呑んだときのように酔う、高濃度のエネルギーを飲みすぎたジャズに絡まれながら、バンブルビーがジャズを部屋に連れて行き、「私は大丈夫だ」と言いながら自室と反対方向へ歩き出したオプティマスはアイアンハイドが面倒を見ている。
明日の朝、ラチェットのラボには冴えない顔をした二人が頭痛をどうにかしてくれと泣きついてくることだろう。
珍しくアイアンハイドはあまり飲まず、酔って上機嫌のジャズがグラスに注いだときだけ、少しづつ口にしていた。
ラチェットが自室へ戻り、手持ち無沙汰で落ち着かない時間をすごす。明日の準備でもしようかと思ったが、どうせ手につかないのでやめた。
満身創痍だが、なんとかディセプティコンを振り切ってアーク号へ戻り、安全な宙域へ姿をくらます事が出来た。(それはオートボットにとっては実質的な勝利といえるだろう)
ダメージを受けた仲間たちの治療を行っている時も、アイアンハイドはラチェットを何か言いたそうな顔で睨みつけていた。かいがいしく片手のラチェットの助手を務めているバンブルビーが、戸惑った顔で、忙しいラチェットを邪魔する事が出来ず、イライラしているアイアンハイドと、アイアンハイドの気持ちに気がついてるくせに気がつかないふりをして、すました顔でみなの治療をしているラチェットを交互に見て首をかしげていた。
ズシン。ズシン。と重い足音が部屋に近づいてくる。ジャズの足音はまるで踊っているのかと思うほど軽快だし、バンブルビーの足音はもうちょっと軽くて可愛らしい。
残るはオプティマスかアイアンハイドだが、こんな時間にラチェットの部屋を訪れる奴は一人しか心当たりがない。
期待が高まった時、足音がラチェットの部屋の入り口の前で止まった。
「ラチェット、俺だ」
さんざん待たせた相手の声を聞き、ラチェットのモーターの回転が上がった。
文句を言われるぞ……という厄介な気持ちと、それを上回る期待と喜び。
ラチェットが入り口を開けると、仁王立ちのアイアンハイドが、いかめしい顔をしてラチェットを見ていた。
これは、そうとう頭にキてるな……。
「飲み足りないだろう? アイアンハイド。グラスを取ってくれ。ごらんの通り不便でね、手伝ってくれると助かる」
アイアンハイドを部屋に招きいれ、気付かないフリをして軽口をたたく。
ちらっとアイアンハイドを見ると、ラチェットの軽いジャブを無視して、ラチェットをにらみつけている。
誤魔化すのは無駄か。
「……なにか言いたそうだな」
覚悟を決め、ラチェットから口を開くと、それがきっかけとなって、アイアンハイドが溜め込んできた想いが決壊する。
「無茶をするな!」
おっと。と、ラチェットが軽く仰け反るほど迫力の有る声で一喝される。
「おまえのそんな姿、見たくなかった……!」
「おや、無茶するなとは言ってくれるな。毎度毎度どてっぱらに穴あけてオイル溢れさせてる奴の台詞とは思えないがね?」
茶化した台詞に、アイアンハイドが激昂する。
「俺のは戦場での負傷だろう! なんでもない腕をわざわざ外すのとは訳が違う」
「冗談だ。でもな、アイアンハイド、戦場で無茶する奴を見守る私の気持ちがこれで判っただろう?」
ラチェットが茶化した態度をやめて真面目に言うと、はっとアイアンハイドの表情が変わった。
「これが今までおれが無茶をしておまえを困らせてきた罰だとしたら、ひどすぎる罰だ」
苦悶の表情を浮かべ、呻くように言い、ラチェットを見るのが辛そうに顔を背けた。
「おれのせいでお前をそんな姿に……」
アイアンハイドは自分を責めて地の底まで届きそうなほど落ち込み、大きな金属の塊がしぼんで頼りなく見えるほどだった。
「おい、私の意地悪にそんなに正直に反応するなよ」
あまりの落ち込みように、ラチェットが慌てて口を開いた。
アイアンハイドは顔を上げたかと思うと、きっとラチェットをにらみつける。
「無茶しすぎだ。ラチェット! おまえは患者を救うためなら自分の身を削るのか!」
「必要だと判断すれば」
落ち着き払ったラチェットの返事を聞いて、我慢ができない。といったようにラチェットを責める。
「おれが悪いのは判っている。だが、戦うことは他の奴にできても、おまえの仕事はおまえにしか出来ないのだぞ! 他の仲間に何かあったとき、おまえが使い物にならなかったらどうする? おまえは特別なんだ!!」
「それはきちんと考慮に入れている。オプティマスの許可も得ている」
「それでもだ! おれはおまえを守らなきゃいけないのに、おれのせいでおまえになにかあったら……」
反論しかけたアイアンハイドをさえぎり、ラチェットが言った。
「おまえの言いたい事は判る。たしかに私のした事は褒められたことではない。患者に何かあるたび医者が身を削っては、救えるものも救えなくなるからな」
だがな……。と一呼吸置いてラチェットは続けた。
「アイアンハイド、おまえが自分が傷つくのを恐れて戦場で戦わなかった事があるかね? 私は医者でこれは私の戦いだ。自分の使命と、仲間を救うためなら、私はお前と同じく、自分の身が傷つくのを厭わない」
「…………」
ラチェットを案ずる感情は早く何か言えとアイアンハイドをせっつくが、反論できず、アイアンハイドは黙った。
「お前に私の腕をつけたのは、仲間を救うために、仲間の勝利のためにやった事だ!」
きっぱりとラチェットは言い、アイアンハイドは反論を諦めたように首を振った。気持ちは全くおさまっていない様子だったが。
「You break it, I'll remake it.」
楽しげにラチェットは言った。オートボットの中で一番派手に「壊す」ということをやってくれるアイアンハイドをからかうように。
「私の座右の銘だ。私は自分の信念に従っただけなのだからアイアンハイドが気にする事はない。おまえはおまえの戦場で、私は私の戦場で。お互い後悔しないよう全力を尽くして戦っているのだからな」
ラチェットは柔らかい口調で付け足すと、アイアンハイドを安心させるように笑った。
「だが、私を心配してくれた事はとても嬉しい、アイアンハイド」
ほんの一瞬、アイアンハイドの唇を掠めるだけのキスをすると、ぱっとラチェットはアイアンハイドから離れて、背を向けた。
「ラチェット……」
アイアンハイドの呟きを背中で聞きながら、グラスを二つと、とっておきの強いエネルギー酒を取り出す。
「それより、さあ、乾杯しよう」
エネルギーを満たしたグラスを取り上げ、アイアンハイドに手渡す。
「我々の勝利と、アイアンハイドと私の腕が無事アーク号へ帰ってきたことに」
軽くグラスを上げ、くいとグラスの中のエネルギーを飲み干す。喉を流れる焼けるような感覚の後、しびれる様な酩酊感がじわっと広がってゆく。
その感覚を楽しみ、一息つくと、アイアンハイドがじっとラチェットを見つめているのに気がついた。
どうした? 飲まないのか? そう声をかけようとした瞬間。アイアンハイドがぐいと一気にグラスの中を煽る。
だん! とやや乱暴に音を立ててグラスを置くと、アイアンハイドは手を伸ばして、無言でラチェットの手からグラスを奪い取った。
「おい、アイアンハイド……!」
ラチェットの声に焦りが滲む。不穏な目をしたアイアンハイドが、ラチェットの腰をぐいと引き寄せる。
顔を近づけてきたアイアンハイドから逃げようとするが、アイアンハイドの腕はラチェットの腰をがっちりと抱えて離さない。
「おい。こら……!」
「おまえが欲しいんだ」
抵抗するラチェットに、アイアンハイドが懇願するように、でも有無を言わさない口調で言うと、強引に口付けた。
抵抗しようとするが、アイアンハイドはびくともしない。そればかりか、ラチェットは求めてくるアイアンハイドに答えるのが精一杯で、主導権を奪われ、アイアンハイドの貪るままの獲物となる。
「この……ケダモノが」
唇が離れると、ぐったりと、甘えるようにラチェットがアイアンハイドの胸に頭をもたせかけた。
体の中に火が点ったように、甘い疼きが生まれる。
アイアンハイドは、戦いの後必ずラチェットを抱きたがる。
まだ戦場の匂いを色濃く残した、猛った体と心のまま、激しく求める。
ラチェットはそれを受け止め、わが身でなだめてやるのだ。欲も、甘えも、アイアンハイドのぶつけてくる全てを受け止める。
「すまん、だが、我慢できない」
アイアンハイドの声に滲む情欲を感じ取り、ラチェットの体の中に生まれた火が煽られる。
「こんな姿のおまえにこんなことをするのは気が引けるんだが……」
声に微かな戸惑いが混じる。
「別に……。なんでもないとさっきから言っている」
ラチェットの言葉に、決心したようにアイアンハイドの腕がぎゅっとラチェットを抱きしめた。
「お前が欲しいんだ、ラチェット」
囁くアイアンハイドの低い声、抱きしめる腕の力。融けそうなほど熱い。
「なだめて欲しい」
正直なアイアンハイドの言葉。
「いつものようにはしてやれないぞ」
ラチェットが囁き返すと、アイアンハイドはラチェットを横抱きにして部屋を横切り、ベッドに横たえた。
「おまえは何もしなくて良い」
短く呟くと、ラチェットの上に圧し掛かる。
色気もムードもないアイアンハイドに苦笑する。文句の一つでも言おうかと思ったが、やめた。アイアンハイドのそこが好きなのだから仕方が無い。
「しょうがない奴だな……」
自分の内心を隠し、呆れたように呟く。
ラチェットの不満を封じるように、アイアンハイドの手が性急にラチェットの体をまさぐり、その荒々しい仕草の一つ一つにたまらなく感じてしまう。
「自分の手でされるというのも……、変な、気分だな」
減らず口を叩くが。アイアンハイドの熱が伝染ったのか、体中が甘く痺れ、いくら堪えようとしても声が漏れる。
どうやら、アイアンハイドだけでなく、私の心と体もそうとう高ぶっていたらしい。
アイアンハイドに求められ頼られているという喜びを、もっと体で感じたいという欲求がラチェットの中で大きくなる。
だけど、アイアンハイドには悟らせない。
自分の言葉が一番効果的な時を狙って囁こう。「私もおまえが欲しい」と。
元はラチェットのものだったアイアンハイドの右手が、ラチェットの左手を、逃がさないとでも言いたげにしっかり握っている。
同じベッドで身を寄せ合っているというのに、ラチェットを片時も離したくない。という風に。
バンブルビーのような若い奴がやるならともかく、私たちの間にそれはないだろう。と笑うが、アイアンハイドは照れて不機嫌になりながらも手を放さなかった。
アイアンハイドの右手、元は自分の手だったものをラチェットがじっと見る。
「私の腕は役に立ったかね?」
ラチェットが囁くと、アイアンハイドが頷き、ぎゅっと握った手に力を込めた。
「ああ、とても……。おまえと、おまえの腕のおかげで勝てたんだ。感謝している」
そう言って、ラチェットを見つめながら右手に愛おしそうに口付ける。
腕を失ったのがアイアンハイドではなく、オプティマスでもジャズでもバンブルビーでも、ラチェットは喜んで腕を差し出す。
理性的に冷静に判断し、勝つためにやった。とアイアンハイドには言った。それは嘘ではない。
だけどもうひとつ、アイアンハイドに隠していた理由がある。
ラチェットの感情の部分が、アイアンハイドの希望を叶えてやりたいと望んでいた。
私は、戦いたがっているおまえを戦場に出してやりたかった。
私情を挟み、判断を狂わせるようなまねはしないが、結果としてラチェットのアイアンハイドへの私情を満足させる事が出来たのは嬉しかった。
アイアンハイドに言うとまたおれのために無理をするなと怒り出すので、この気持ちは心の中だけに秘めておく。
情事の後の心地よい気だるさを味わいながら、ラチェットは幸せな気分で、口元でだけで笑って軽口を叩いた。
「腕はもうちょっと貸しておいてやる。私の手でヘンな事はするなよ」
「なんだへんな事って!」
「わざとらしく聞き返すって事は実践して欲しいのか?」
ラチェットの手がアイアンハイドの敏感な部分をついとなで上げる。抵抗するとばかり思っていたアイアンハイドが、逆にラチェットの肩を掴みベッドに押し付けた。
「……おい、まだ、するのか?」
「おまえが誘ったんだろうが!」
さっきさんざんしたろう……。とラチェットが呆れ声を出すが、アイアンハイドが言い返す。
アイアンハイドが手を伸ばし、何気なくラチェットの頬に触れると、不意にラチェットの顔が歪む。
「おまえが生きてて良かった」
「……ああ」
呟かれた言葉にはっと胸をつかれる。
俺は、馬鹿だ。
自分の感情を吐き出すだけで、ラチェットが同じ想いを抱えている事に気がつかなかった。
腕を失い、それでも戦場に出ると吠えるアイアンハイドをどんな思いでラチェットが見ていたのか。
「戦って、戦って……。あまりにも長く戦いを続けていると、たまに心が弱くなってろくな事しか考えられなくなる」
心が麻痺して、勝つのも負けるのも、よく判らなくなる。
オールスパークを手に入れるために、古き友を失う。そんな勝利には意味があるのだろうか?
心が弱くなると、時折そんな疑問に取り付かれ、何もかもがむなしくなる。
普段そんな感情は自分の心のうちにしまいこみ、弱気を見せないラチェットが珍しく弱音めいたことを口にする。
なにか言ってやりたいと思うが、上手い言葉が見つからず、幼稚だと馬鹿にされる事を覚悟でアイアンハイドが口を開く。
「俺の心が、迷った時や疲れてしまった時は、とりあえずおまえの事を確かめる」
「私?」
不思議そうな顔をしたラチェットにアイアンハイドは頷いてみせた。
「おれにとって確かなもの……。つまりおまえの存在を確かめる。おまえを抱いて、生きてて良かったと思うと、心が満たされておれは間違ってなかったと思えるようになる」
「単純だな」
「悪かったな」
思わず笑ってしまったラチェットにアイアンハイドがふくれた。
「だが、私はおまえの単純さにずいぶん救われているよ、アイアンハイド。シンプルで、強いお前に」
笑いをおさめ、ラチェットはアイアンハイドを見つめながらそう言った。
アイアンハイドの言う事は本当だ。と本気で思う。
アイアンハイドの激情を体と心で受け止めるたび、心の中がひたひたと満たされてゆく。アイアンハイドに貪欲に貪られ、奪われているのに、ラチェットの中身は空にならずに、前よりいっそう豊かになる。
「判らない時はごちゃごちゃ考えずに体を動かせばいい。おまえは頭が良すぎるんだ」
もっと笑われるかと思ったが、珍しく口でラチェットに勝てそうなので、アイアンハイドはふくれながらも自分の気持ちを最後まで言い切った。
「判ったよ」
アイアンハイドの言葉と態度に、またラチェットは笑う。
「こうして、生きてる事を確かめればいいんだろう?」
ラチェットはアイアンハイドを引き寄せ、笑いながら口付けた。
ENDE
あいつら、映画の中でのあの仲のよさを見るに、これくらいラブラブでも良いと思います。
とりあえず大人な二人を目指してみた。目指しただけ。
ラチェット先生の右手でアイアンハイドのハッピータイムってえろいな。と思いました。
酔っ払ったジャズとバンブルビーもそのうち書くかも。
20071005 UP