何が音がしたのを不審に思い、母親のオプティマスが小さなオプティマスのベッドの枕元を探ると、ひび割れた小さな三角の石版が手に触れた。

「何だこれは……?」

 こんなものを置いた覚えなどなく、首をかしげる。

 それはフォールンだとメガトロンが言うと、母親のオプティマスは驚いて落としてしまった。石版は乾いた音を立てて落ち、無力に割れる。

「俺はそれをフォールンと知らず触れた。いつのまにか消えたので探していたが。オプティマスを狙ってここにいたんだな」

 吐き捨てるようにメガトロンが言う。小さなオプティマスの母親の母親が石版の破片を摘み揚げ、小さなオプティマスの眼前に差し出す。

「お前はフォールンとの一騎打ちにおいて完全に勝利をおさめた。呪いはフォールンに跳ね返り、立ち直れぬほどのダメージを受けたのだろう、フォールンは力を失い、これはいまやただの割れた石だ。二度とおまえの前に姿を現すまい」

 小さなオプティマスが石版を見る目には、フォールンに対する恐れも畏怖も無かった。興味すら失っている。

「最も、今のお前はもうフォールンなど恐れないだろうが」

 小さなオプティマスの白けた目を見て、母親の母親は笑った。

 姿は小さくとも誰よりも強いオプティマスだからな。そう言って頭を撫でる。

 子供の事だ。恋というよりも、憧れのようなものだろうとたかをくくっていた。謝らなければいけないなと内心で呟く。

 この子は、一生の恋をする運命の相手に出会うのが少し早かっただけなのかもしれない。今はそう思う。

 小さなオプティマスの母親の母親は差し出されたメガトロンの手に石版のかけらを渡した。かけらが触れた瞬間、声が頭の中に響く。

「メガトロン、助けろ!」

 かつての影響力を失ったフォールンの声。この声がなぜ何もかも捨ててついていこうと思えるほど魅力的に聞こえたのか。

 闇の中で蠱惑的に見えたフォールンは、強く美しいオプティマスの光に照らされると、嘘という薄っぺらのめっきがいかにも安く、憐れなほど卑小だった。今となってはこんなものに騙されたという苦い思いと嫌悪しか抱かない。

 メガトロンは表情一つ変えず、手の中の石版を粉々に握りつぶした。


 みすぼらしいしみのような黒い影。メガトロンが近くに来ると、嬉しそうに這いよって触れようする。だが、急に影は怯えて陰に隠れた。

 何も知らぬメガトロンは後ろから現れたオプティマスと連れ立ってフォールンの前を通りすぎていく。

 ぶつぶつと罵りの言葉を呟くフォールンの前に影が落ちた。ふと顔を上げ、自分を見下ろす青い目と目が合った瞬間に悲鳴を上げる。

 フォールンの前に立ちふさがるように一人のオプティマスが立っていた。

「そんな姿になってまでここに留まっていたのか。未練がましいぞ。お前ごときに侮られる我らではないと何度思い知れば判る。スクラップ以下のお前のブレインサーキットは、幼い者になら勝てるとでも思ったのか?」

 フォールンは答えない。無言で憎しみの篭った赤い瞳をオプティマスに向ける。

「私の事は覚えているか?」

 オプティマスがそう言うと、フォールンは明らかに動揺した。

「私の仇は私の直系の子孫がとってくれたというわけだ……」

 オプティマスの青い瞳が暗がりで冴え冴えと光る。フォールンに屈辱と恐怖を与える美しい光。

 怒りを糧に燃えあがり一層美しく輝くその瞳の持ち主はゆっくりと言った。

「私はメガトロンを殺したプライム。お前に唆された我が良人のスパークをこの手で貫き、海に沈めたプライムだ」






ENDE.




子オプが大きくなるにつれ「メガトロンが手を出してくれないのは私に魅力が無いからだろうか……? いつまでたっても私は小さなオプティマスのままなのだろうか」などと悩んだり「手出したいけどこどもの頃の約束で縛るのもかわいそうだし軽蔑されてもなぁ」という若メガ様がてんやわんやします。

子オプの母の母の話もいつか書きたいです。



20090920 UP

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