folklore










 その家はオプティマスばかりだった。

 小さなオプティマスと、その母親と母親の母親。

 メガトロンは小さなオプティマスの父親一人。

 小さなオプティマスは早く母親や母親の母親のような大人のオプティマスになりたくて、大人びた事を言ってみたり、大人の仕事を手伝ったり(散らかした後の片付けをするのは小さなオプティマスの母親だった)するのだが、父親のメガトロンは背伸びする小さなオプティマスを「まだお化けが怖いくせに」「高いところが怖いくせに」と言っていつもからかった。

 お化けじゃなくてフォールンだ。フォールンは本当にいるのだとお母さんのお母さんが言っていた。そんな事を言って私に意地悪するのだったら、フォールンに連れて行かれそうになっても助けてやらないぞ!

 父親にからかわれるたびに律儀にぷんぷん怒る小さなオプティマスに母親は優しく笑い、「許してやれ」と小さなオプティマスを宥めた。「メガトロンはお前が大きくなると寂しいからあんな事を言うのだ」と言ってお菓子をくれる。

 許せないといえば、従兄弟のメガトロンは私よりちょっと大きいだけの癖に、ちびのオプティマスなんかと一緒にいると恥ずかしいからもう遊ばないと言った!

 治りかけた機嫌はみるみる悪くなり、小さなオプティマスはお菓子を放り出し、今度は母親の母親のオプティマスにしがみ付いて泣く。

「お前が大人になれば、お前を邪険にしたメガトロンが今度はお前を求めてくる。その時に復讐してやりなさい。『このブリキのガラクタが!』とでも言って」 

 メガトロンはみんな意地悪で子供で馬鹿ばかりだ! 

 そう訴えると、小さなオプティマスの母親の母親は、ふ、ふ、ふと意味ありげに笑った。

「お前の言うとおり、メガトロンはみんな意地悪で子供で馬鹿ばかりだ。それが可愛いんじゃないか」

「可愛くない! 好きになるなんて絶対にないぞ」

 思いっきり顔をしかめた小さなオプティマスの頭を撫で、母親の母親のオプティマスは続けた。

「お前の母親が、お前の父親をとても愛しているのは知っているな?」

 小さなオプティマスは頷いた。良人の事を「見るたび恋をする」と言って憚らぬ母親と、隙あらば自分の妻を口説く父親が見つめあい愛を囁き合う光景を見て、呆れるけれど本当は少しだけ憧れている。

 椅子に腰掛けて書き物をしていた母親の母親のオプティマスは、小さなオプティマスを抱き上げて膝の上に載せた。

「お前の父と母のように仲睦まじいメガトロンとオプティマスに嫉妬して、邪魔しようとするものがいる」

「フォールン?」

 小さいオプティマスの尖った耳に口を寄せ、低く声色を変えて言った母親の母親のオプティマスに、小さなオプティマスも周りを気にしながら小さい声で囁き返した。迂闊にその名を口にしてはいけないのだ。呼び寄せてしまったら大変な事になる

 そうだその通り。フォールンはメガトロンが欲しくてたまらない。狙ったメガトロンに悪い魔法をかけて、狂わせてしまった後にフォールンはメガトロンを収穫する。

 フォールンは、嘘をつき欲望を煽ってメガトロンを騙す。だから、フォールンがかけた悪い魔法がとけた時、メガトロンにはフォールンに対する怒りと失望しか残らない。思い通りにならなくなり、自分の元から去ってしまおうとするメガトロンをフォールンは怒って凍らせてしてしまう。

 凍ったメガトロンをいくつ増やそうとも、その腕はフォールンを抱きしめてはくれない。

 そして、フォールンはまた一人になる。

 フォールンと私たちの先祖は兄弟だった。かつてはとても近しい存在のはずだったのだ。だが、今は違う。お前の母親のように、私たちは愛するメガトロンを得てプライムとなるが、誰も愛さずそれ故に誰にも愛されぬフォールンはプライムになれない。フォールンは、オプティマス・プライムに嫉妬し、自らの欲望を満たすためにメガトロンを浚っては同じ事を繰り返す。自らプライムとなる資格を捨てていることに気付かないまま。

「覚えていなさい、自分の欲望を満たすために他人を踏みにじる者は、結局のところそれで得られたものよりもっと多くのものを失う事になるのだ。嘘をついたり騙したりずるい事をするとフォールンになってしまうぞ」

 真剣に聞きいっていた小さなオプティマスは素直にこくんと頷いた。漠然とした恐ろしさに襲われ、フォールンが来て、お父さんを盗られたらどうしよう。などと想像すると怖くて仕方が無い。すっかり怯えてしまった小さいオプティマスに、母親の母親のオプティマスはにっこりと笑った。

 怖がる事は無い。この間、フォールンを退治するお呪いを教えてあげただろう?

 お呪いの事を思い出して、小さいオプティマスの緊張した表情がほっとゆるんだ。

 フォールンはプライムのいるメガトロンは狙わない。なぜなら、フォールンの弱点は私たち。昔々、メガトロンを奪われた一人のプライムが、その復讐にフォールンの顔の皮を剥いでやったから、その日以来フォールンはオプティマスが、特にオプティマス・プライムが怖いのだ。

 フォールンを退治したオプティマスの話を聞きたい。小さなオプティマスがおねだりすると、母親の母親は小さなオプティマスを膝の上で抱きなおし、小さなオプティマスのお気に入りの昔話を話しだした。

 昔々、フォールンに悪い魔法をかけられたメガトロンがフォールンに誑かされてしまった。大きくて強く、魔法も使えるフォールンには誰も逆らえず、プライムになる約束をした恋人を盗られたオプティマスに誰もが諦めろと言った。「おまえがメガトロンを取り戻すのは、一つの部品でできた機械生命体を見つけるのより難しい」

 だが、そのオプティマスは諦めず、メガトロンを取り戻すために旅に出た。

 とても辛くて長い旅だった。

 バンブルビー村では大きなミミズの化け物を何匹も倒して村を救い、ジャズ村では勇敢な酋長に求婚され、血気盛んなアイアンハイド村ではささいなすれ違いから生じた争いを調停した。

 そんな長い旅の末、オプティマスはようやくフォールンがいる巨大な金属の塔の近くまでやってきた。

 もう少しでフォールンを追い詰めるという時に、オプティマスは、老いた機械生命体を見つけた。その機械生命体の名はジェットファイアといい、ジェットファイアは部品が崩れ落ちるほど老いていたにもかかわらずエネルゴンを与えてもらえず、死に瀕していた。

 「早く行け。オプティマスが追ってきたことに気付けば、フォールンは逃げてしまう。わしを置いて先を急ぐがいい」ジェットファイアはそう言ったが、オプティマスはジェットファイアを見捨てはしなかった。

 ジェットファイアを救おうと手を尽くしているうちに、やがてオプティマスが追ってきたのをフォールンに知られてしまった。フォールンはオプティマスをあざ笑い、地を往くオプティマスがどれほど追いかけても届かないほど遠くへ一瞬のうちに逃げ去ってしまう。

 長く辛い旅は無駄になった。もう二度と愛しいメガトロンには会えないのだろうか?

 オプティマスが悲しみに沈んでいると、死ぬ前に一つ役に立つ事をしたいとジェットファイアは言った。「戦うことしか知らず、価値のある事は何一つしてこなかった。主のフォールンにも見捨てられたわしが役に立つ時が来た」

 ジェットファイアは自らの部品をオプティマスに差し出して言った。「お前に必要なのは翼だ。わしの体を使って目的を果せ」

 一緒にいた医者とその弟子がオプティマスにジェットエンジンを移植すると、体中に力がどんどん漲って、どこまでも高く、速く飛べた。

 翼を手に入れたオプティマスはあっという間にフォールンに追いついた。

 ジェットファイアがくれたのは翼だけではなかった。圧倒的な火力とパワーを手に入れたオプティマスのエナジーソードにフォールンの体は貫かれ火に焼かれ溶け出した、敵わぬと悟ったフォールンはオプティマスに命乞いをした。「おまえのメガトロンは返す。そうすば、おまえは私と同じ『プライム』になれる」と。だが、オプティマスの返事はこうだった。「おまえはメガトロンに愛されたのではない。盗んだだけだ。そのお前にプライムを名乗る資格は無い。プライムを名乗っていいのは、メガトロンに愛され、共に生きようと誓ったオプティマスのみ。私はお前にメガトロンを盗まれた全てのオプティマスの仇をとる」

 フォールンは逃げようとした。だが無駄だった。

「私は失ったものを取り戻す。おまえは私たちから盗んだものを返すがいい」

 その言葉と共にオプティマスに顔を剥ぎ取られたフォールンは、それ以来オプティマスを恐れるようになった。 

 だからフォールンは「お前の顔を剥いでやるぞ!」と呪いを唱えれば逃げてしまう。

 お話はこれでお仕舞いだ。

 もう、怖くないだろう?

 小さいオプティマスは「うん」と笑って頷いたが、すぐに浮かない顔に戻った。

「ジェットファイアは死んでしまったのだろうか?」

 そう呟くと、母親の母親のオプティマスは「いや、あれからラチェットの手当てを受けて奇跡的に回復し、今でも世界のどこかでぴんぴんしているそうだ」と答えた。

「ジェットエンジンを装備して飛ぶのはどんな気分だろう?」

 小さいオプティマスが想像してうっとりと言う。機嫌が悪かった事は、母親の母親のオプティマスの思惑通りにすっかり忘れている。

 母親の母親のオプティマスは笑って、「ジェットエンジンは無いが、パラシュートならあるぞ」と言い、前からそれを欲しがっていた小さいオプティマスは飛び上がって喜んだのだった。

 


ENDE.


マスオさんなメガ様。そして続く。

20090829 UP


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