いかれSound








 ディスプレイの前で頬杖をつくスタースクリームは、ちらっと目線を横へ動かした。

 だらしないスタースクリームと違い、背筋を伸ばして別のディスプレイに向かうのは、ネイビーブルーの情報参謀。

 こんなつまらねえ仕事、真面目にやるなんてどうかしてる。サウンドウェーブの方がバカなんだ。

 だらしない自分と正反対の姿に、スタースクリームがふんと鼻を鳴らす。

 ああ、飛びてえ……。

 内心で呟く。もう何度この言葉を呟いたことか。

 こんな海の底で、つまらない監視作業を続けるなんて気が滅入ってしょうがない。

 シフトがあけたら思いっきり空を飛びにいこう。

 そう思って自分を励ますと、仕事をしているフリをしてコンソールに触れ、余計なウィンドウを一つ開く。

 再び、ちらっとサウンドウェーブをのぞき見る。なんだかんだいって気になるのだ。

 サウンドウェーブは、先ほどまでの静かな姿から一転して、忙しく手を動かしていた。ただ相変わらずディスプレイから目を離さなかったし、背筋を伸ばした姿も変わらなかったが。

 なんだ、あいつもサボってるんじゃねえか。

 サウンドウェーブが自分と同レベルになったことに内心喜びを隠せず、下世話な好奇心でサウンドウェーブのディスプレイを見つめる。

 そこには驚愕の事実があった。

 サウンドウェーブは、監視作業の傍らで、先日スタースクリームが持ってきた謎の鉱物の分析作業を行っていたのだ。

 チカチカとサウンドウェーブの無表情にディスプレイの光が映る。

 っつ、おいおいおいおい。そこまで仕事するか普通!?

 口うるさいメガトロンもいないんだぜ! ここはサボるところだろう?

 くだらねえ書き込みで回線の向こうの奴を煽ったり、台所ロマン劇場を見たりするのが正しいだろう?

 あいつ、真性のバカか?

 サウンドウェーブからすればまったく筋違いの怒りを覚え、スタースクリームが内心でサウンドウェーブを罵る。

 まさかこんな低レベルの僻みを口に出すわけには行かないので、内心でぶつぶつ呟きながらひとしきり時間を潰すが、我慢も限界にきはじめた。

 ああ、つまんねえ……。

 こんな仕事、サンダークラッカーに押し付けて、メガトロンのところへ行こうかな……。

 ぼんやりと考えているスタースクリームの耳に、おかしな旋律が聞こえた。

 ん?

 びーとかぷーとか、ぷっぷくぷーとか。

 ぱらりろぱらりろおっぺけぺー。

 な、なんだ? 

 それは聞き逃してしまいそうなほんの小さな音だったが、耳を済ませるとたしかに聞こえる。

 ぴんぽんぱんぽんぷりぷりぷー。

 脱力系のその音に思わず噴出しそうになるのを必死で堪えた。

 何だこの音は、どこから聞こえる?

 きょろきょろとあたりを見回すと、再び静かになったサウンドウェーブが目に入った。

 サウンドウェーブの指が、コンソールの端をとんとんと叩いている。何のことは無い。退屈した時、スタースクリームもよくやる仕草だ。

 どこか気になってこっそり見つめていると、五本の指のそれぞれがコンソールに触れるたび、おかしな音が生まれるのだ。

 ぷりぷりぷりり、ぽこぺんぺん、ぷっ!

 サウンドウェーブがリズミカルに指を動かすと、先ほどの変な音が耳に入る。

 あいつだ……。犯人はサウンドウェーブの野郎だ!

 無表情でおかしな音を作曲演奏するサウンドウェーブに気がついた瞬間、ぶはっと噴出しそうになり、慌ててセキをするフリをして誤魔化した。

 やっぱりあの野郎も退屈だったんだ……!

 笑わせやがって。

 肩を震わせ笑いをかみ殺すが、腹が痛い。

 間違いねえ。

 スタースクリームは確信した。

 あいつ、サウンドウェーブはバカだ。スカイワープと同じにおいがする。

 クールに見せかけやがるから勘違いしたじゃねえか。

 よくも俺を騙したな……!

 ぽぽんエスぽぽんエスぽぽんエスぽぽんエスぽぽぽぽぽぽんエスぽぽんエスぽぽんエスぽぽんぽぽぽ……。

 だから笑わすんじゃねえっ!!

 堪えきれずに、がたんと音を立ててスタースクリームが立ち上がった。

 つかつかとサウンドウェーブに近づく。

「ナニカ用カ?」

 いつもどおり感情を感じさせない声。

 しかしお前がおもしろサウンドであることはもうこの俺様にばれてるんだぜ!

「サウンドウェーブ、お前、バカだろ。見直したぜ」

 そう言われてもサウンドウェーブは相変わらず無表情で、バカにバカ認定されたサウンドウェーブの内心を探ることはできなかった。

 ただ、赤いバイザーの奥の光が一瞬強くなり、すぐに元に戻った。

 




ENDE

私のサウンドウェーブのイメージはこんなんです。ごめんよサウンドウェーブ。



20070911 UP


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