コンボイの謎を巡る攻防








 ジェットロンが三羽、こそこそと羽を寄せ合い囁きあう。


「だから、あいつむちゃくちゃ面白いことしやがるんだよ!」

「あのサウンドウェーブがそんな事するとはにわかには信じられんぜ」

「ふん。サウンドウェーブがなにしようが俺は絶対笑わねえ!」


 「サウンドウェーブが、退屈してる時変な音出して遊んでいるのを見た」というスタースクリームの証言。

 三羽の目線の先の、つまらない監視作業をしているサウンドウェーブ。

 あの時の再現なるかと息を潜め、期待に満ちた目で見守っている。


 チャ〜ララ〜ラ〜、ラ〜


「き、来た……!」

 興奮したスタースクリームが、ほれみろ。と得意げな顔をして残りの二羽を振り返る。

「おいおい、マジだったのかよ」

「お、これは、あの伝説のクソゲ、『コンボイの謎』のスタート画面の曲じゃねえか!」

 小声ながら驚きを隠しきれないスカイワープ。


 チャ〜ラ〜ラララララ〜、チャ〜ラ〜ラララララララ〜、チャ〜ラ〜ラララララ〜、ララ〜


「すーぐー死んじゃうよー」

 一面に入ってから流れる音楽を聞いて、無意識のうちにサンダークラッカーが歌った。

「やめろ歌うな。笑うだろ!」

「おーちゃーづけをたべーよおー」

「やっ、やめろ、ほんとにやめろ!」

「笑ったら俺たちの負けなんだぞ!」

 サウンドウェーブに無断で、サウンドウェーブ対ジェットロンの勝負が一方的に始まっている。勝とうが負けようがどうでもいい勝負だが、プライドがかかっているのでそこそこ必死だ。


 チャラララッ、チャララ、チャラララララ。チャラララッ、チャララ、チャラララララ。


 固唾を呑みながら三羽がなんとなく聞き入っていると、サウンドウェーブが流す音楽ががらっと変わった。

「上手いな。ノーミスでボス戦までいってるぜ」

「なかなか死なねえな」

「俺なんか最初の戦闘機の攻撃で即死だぞ」

「だいたいあのちいせえ弾一発で死ぬなんてウルトラマグナスの奴弱すぎやしねえか? どんだけヘタレなんだ」

「なんでどうやって死んでも最後は爆発なんだろうな?」

 ジェットロンが勝手な事を囀りあううちに、ボス戦の音楽が止まった。

 

 チャ〜ラララ、ラ〜


「勝った」

「うん、二面まで行った。だが走り抜けるだけでよかった一面と違い二面は難しいぞ……!」


 気がつけば真剣に聞き入っているジェットロン三羽。目の前にはゲーム画面が見えている。

 ウルトラマグナスの安否を気遣い、なかなか死なない頑張りに応援さえしていた。


 その後もウルトラマグナスは(というかサウンドウェーブの流す音楽は)危なげなく進み、そして何度目かのボス戦へ挑んだ。 


 チャラララッ、チャララ、チャラララララ。チャラララッ、チャララ、チャラララララ。


「今頃メガトロン様と戦ってるな」

「ああ」

「でかいんだよな、ものすごく」

「隠しステージに出てくるメガトロン様、なんなんだろなあ……? なんかストーリーに絡んでくるかと思ったらそれっきりだったし」

「それを言うならそもそも何がコンボイの謎なのかが謎だ」

「こんど本人に聞いてみろ」

「いやたぶん答えてはくれんだろう。黒歴史だからな」

「知らんのか? 何が謎かは説明書にすでに書いてあるんだぜ」

「なんだと!」

 ざわつくスタースクリームとスカイワープを、サンダークラッカーが唇に人差し指を当てて制した。


 チャ〜ラララ、ラ〜

 

 ボス戦後のステータス画面の音楽。次の面に進めたのだ。


「勝った!」

「メガトロン様に勝っちまった!」

「勝った!」

 驚きに沸くジェットロンお構い無しにウルトラマグナスは冒険を続けていく。


 チャ〜ラーラララララ〜、チャ〜ラ〜ラララ

 ………………。

 

 再び軽快に始まった音楽が、ふっつりと途切れた。

 聞き入っていたジェットロンが、はっとお互いの顔を見た。


「音楽が止まったぞ」

「まさか……!」

 ジェットロン三羽の間に緊張が走る。


 チャ〜ラララ、ラ〜


 再び鳴り出したステータス画面の音楽。

 それが意味するものは……。


 死んだ。

 死んじまった。

 死んだ!!


 言葉は出さずとも、お互いの言いたい事は判っていた。

「ウ、ウルトラマグナス……!」

「ここまで頑張ったのに……」

 ノーミスクリアまでもう一歩だったウルトラマグナス追悼の雰囲気がたち込める。

「いやでも最後まで笑わなかったぜ、俺たち」

 最初からなんの勝負だかさっぱり判らないが、スカイワープが誇らしげに言った時。

 そこで思わぬ伏兵が現れた。

「……死んだな」

 今までずっと無言で指揮席に座っていたメガトロンが、ぼそっと呟いたのだ。


「メガトロン様も聞いてたんですかい!」

「もうだめだぁ!!」

 たまらずスカイワープが吹き出した。ジェットロン三羽が堪えていた分だけ思いっきり爆笑する。

「メガトロン様ぁ!! ひどいじゃないですか」

「この連携プレーは卑怯ですぜ。笑う。笑いますってぇ!」

「ていうかなんでこんなクソゲ知ってるんですか!」

 ジェットロン三羽の猛抗議を受け、メガトロンが「聞いていたら悪いか!」と怒鳴り返している。


 サウンドウェーブのバイザーが一瞬光ったのが、「してやったり」と笑ったように見えた。



ENDE.

 



20081205 UP


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