All Sparkだョ!全員集合










 あまりにも殺風景な部屋だった。

 灰色の床、灰色の壁、灰色の天井。壁際にはいまや骨董品となった大昔の最新機器が積み上げられている。

 部屋の中央には大型テレビが置かれていた。この部屋で唯一現役の地球製の機械。暗い部屋に、テレビの光がちらちらと映る。

「わはははは」

 コンクリートの壁に笑い声が反射して、天井まで上がっていく。

「わははははは」

 定期的にテレビから発せられる中年のアジア人女性の無機質な笑い声は、時に高くなり、重なり、聞くものを幻惑するハーモニーを奏でる。

 テレビの前には、殺風景な部屋には場違いなほど鮮やかな黄色いシートが広げられていた。

 シートと同じ色に塗装された手が伸び、ほのかに光を放つエネルギー体を摘む。

 床にうつぶせになり、シートを頭から引っかぶる。クッション代わりに寝かせたドラム缶を抱きしめて顎を載せ、手の届く範囲にお菓子とオイルとリモコンとリモコンの小さなボタンを押すための棒を用意する。

 青い光を放つ双眸は一瞬たりともテレビから離れない。手を伸ばした先に目当のお菓子が見つからず、手探りで探し出す。

 この部屋で唯一の機械生命体であるバンブルビーは、テレビを見るときの地球式作法を完璧にマスターしていた。

 テレビの中では、先ほどまでバンブルビーを楽しませてくれた愉快な五人組がビシッと黒いスーツを着て歌っている。

「さよならするのは辛いけど」

 おいらもその気持ちよく判る。

「時間だよ、仕方が無い」

 そう、楽しい時間は終わっちゃう。みんなこの理不尽に耐えなきゃいけないんだ。

「次の回までごきげんよう」

 前向きだなー。おいらも見習わなくっちゃ。

「ババンババンバンバン」

 ……?

 聞いた事のないフレーズにバンブルビーは首をかしげた。

 なにそれ?

 困惑の表情を浮かべる。あとでジャズに聞いてみなければなるまい。

「ハァビバノンノン」

「はーびばのんの?」

 よく判らないが、その言葉を口にしてみたら気分が浮き立った。たぶん良い言葉だ。

 テレビを消したバンブルビーは立ち上がり、シートとお菓子を片付ける。フーバーダムの一角で長年放置されていたこの部屋は、いまやバンブルビーのひみつ基地と化している。今はテレビくらいしか置いてないが、いずれ大要塞を築いて独立宣言するつもりだ。

 バンブルビーは外へ通じるドアを開け、隙間に頭を突っ込んで空を見上げると、朝日がまぶしかったので慌ててカメラアイの光量を調整した。

 お日様があんなに高く昇ってる!

 驚いたバンブルビーは、オートボッツさわやか朝会議に遅れないように早足で歩き出した。

 途中、同じく会議室に向かっているジャズを見つけたバンブルビーはさっと片手を挙げる。

「ジャズ、おいすー」

「オイッスー」

 ジャズも同じポーズで応じると、満足げな顔で口を開いた。

「お前も俺の調教のかいあって染まってきたようだな」

「ウン、また一晩中ドリフ見ちゃった。ケン・シムラとチャ・カトウは本当に面白いね」

 目の光を眠そうにしょぼしょぼと揺らしながら、バンブルビーが頷いた。

 バンブルビーの寝不足のきっかけはジャズだ。

 バンブルビーの前で「エンヤーコーラヤット ドッコイジャンジャンコーラヤット」という謎の歌と共にジャズが今までに見たことのない動きをしたのだ。

 なにそれ! スゴイかっこいいからおいらもやりたい!

 ならこれ見ろよ。とさりげなくジャズが垂らした釣り糸に黄色い魚が食いついた。

 上手いこと釣り上げたバンブルビーへジャズは餌をたっぷり与え、今では「おいっす」を共通の挨拶と定めるまでの成長を見せている。

 だが、順調に育っているかに思われたバンブルビーが次の瞬間口にした言葉にジャズは衝撃を受けた。

「でも……、雷様は飛ばした」

「この大バカヤロウが!!!!」

 いきなり怒られて、バンブルビーが目を白黒する。

「えっ、な、なんで?」

「ドリフでもっとも面白いのは、雷様だろうが!」

 絶大な自信を持って断言したジャズに、バンブルビーが首を傾ける。

「え……。ええ〜? 雷様がぁ〜?」

 バンブルビーの首の角度と疑念は深まるばかりだったが、ジャズはきっぱりと言い切る。

「お前も大人になれば判る!」

「そうかなあ……。じゃあちゃんと見てみるよ」

 なおも納得いかないバンブルビーだったが、あまりのジャズの勢いに押されて頷いた。

「でも最近、コウジ・ナカモトの存在感の大切さが判るようになってきたよ」

 嬉しそうに報告するバンブルビーに、ジャズの斜めだった機嫌が直る。

「それはいい傾向だ」

 ジャズに誉められたところで、バンブルビーが向こうからやってくるオプティマスに気がついた。

「あっ、オプティマス、おいすー!」

 迷いなく片手を挙げたバンブルビーを見て、「ゲッ!」っと小さい声をあげてジャズの顔が歪んだ。なんだそれはと聞かれたら、またバンブルビーにヘンな事を教えていると怒られる。

 焦るジャズの側を通りながら、オプティマスはすっと片手を上げた。

「おいすバンブルビー、ジャズ」

 とても自然にそう言って、悠々と歩いていくオプティマスの背をジャズが呆然と見送った。

 数瞬の後、はっと正気に戻ったジャズがバンブルビーに詰め寄る。

「な、なんだ今のは? バンブルビーお前オプティマスに何を教えてくれてるんだ」

「え? オプティマスがおいらに『おまえとジャズがやっている、オイッスとは何だ?』って聞くから、おいらがジャズに教えてもらったとおり教えただけだよ。『オイッス!』は偉大なリーダー、チョウスケ・イカリヤが使っていたスペシャルな挨拶で、『オイッス!』に人々の心は一つになり、希望と熱狂を与えるその挨拶は大衆に絶大な人気を誇ったって。そしたら、オプティマスも偉大なリーダー、チョウスケ・イカリヤにあやかりたいから使おうって言ってた」

 事の重大さを判らず、のんきに言ったバンブルビーのうかつさにジャズは頭が痛くなりそうだった。

「お前、オプティマスはだめだろ!」

「なんでだめなの!」

 まさか怒られるとは思っていなかったバンブルビーが抗議の声を上げる。

「オプティマスが俺より面白いからだ!」

「……あ、そう」

 心の底から悔しそうに言ったジャズの言葉に、バンブルビーはぷっしゅ〜とタイヤの空気が抜けたような気分になった。

「クソッ、オプティマスはオプティマスってだけで面白いからな。白いスモック着て早口言葉なんてされたら、上からタライが落ちてくるぐらいじゃ絶対に勝てない……」

 ぶつぶつと呟くジャズを、バンブルビーが生暖かい目で見守る。

 ジャズは何と戦っているんだろう?

 バンブルビーはなぜがその疑問をジャズに向かって口に出す事ができず、理由は聞かずにジャズの闘志だけを尊敬することに決めた。




                                        ENDE.



「ちょっとだけよやれよオプティマス」とかそんな事態にならんかな。
オプティマスの益荒男ぶりあふれるちょっとだけよが見たいです。

地球へ集合するオートボッツみて最初に思ったのがこのSSのタイトルでした。


20080718UP

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