Destruction Dream
よう新入り。お前どこの工房から来た? 当ててやろうか?
ああ、判るのか? だって? 判るに決まってら。お前は俺らをなんだと思ってるんだ? プロなんだぜ。どこの工房で、誰の設計で造られたかなんて一目見ただけですぐに判る。モノには作った奴の癖や考え方が出るんだぜ。よーくな。
安心しな。お前を作ったのは腕の良いヤツさ。そのショベル、いかしてるぜ。きっとお前も良い採掘兵になる。俺が言うんだから間違いない。
名前は? ああ了解。
後で仲間にも紹介してやる。みんな気の良いやつさ。多少荒っぽいがな。仕事はきついぜ。覚悟しときな。しかしお前は運が良い。物を作れるボディを持っただけでなく、俺たちの仲間になれるんだからな。
俺たちゃチームさ。チームってのは、一足す一が二にも三にもなるんだ。大変だけどやりがいの有る仕事だぜ。
ここだけの話、壊すしか能の無え軍事用なんかより、俺たちのほうが上だと思ってる。あいつらは自分たちのほうがえらいと思って威張り散らしてるが、お前たちを作ってやったりリペアしているのは誰だか考えろってんだ。
モノを作るってのは崇高で神聖な仕事だ。
一番多く神の恩恵を受けるのはモノを作る奴さ。少なくとも俺はそう信じてる。
図面を引いてる時も、足場を作ってる時も、コンクリ練ってる時さえ、俺は神の存在を感じるね。
おい、変な顔するなよ。出来たばかりのお前にゃぴんと来ないだろうが、神サマってのいるんだぜ。お前もおいおい判る。
一番判りやすいのが俺たちだ。俺たちがどうやって生まれてくるか知ってるだろう?
まずボディを作る。全く同一のボディを作ったって、新しく生まれたトランスフォーマーは同じじゃない。個性も、性能だって変わるんだ。ほんとさ!
同型のジェットが三人いたとして、一番鼻っ柱が強いジェットが一番早いんだ。
不思議だと思わねえか?
俺はそういうのを見るたびに神サマの存在を感じるんだ。
ベクターシグマ……、ああ、俺たちに命を吹き込むベクターシグマは神とも言えるかもしれない。でも、違うんだ。もっと大きな……。ベクターシグマさえもその神の手の中にあるんだ。チクショウ。上手く言えないのがもどかしいぜ。感じろ。こういうのはフィーリングだ。
設計を考えて、図面を引いて、建物を建てる。
それは単純作業の積み重ねなんかじゃねえ。神との対話だ。
ますます判らなくなったか。すまねえな。
じゃあ違う神サマの話をしようか?
設計は俺たちの仲間なら基本的に誰でも出来るんだが、やっぱり得意なヤツとそうでないヤツがいて、中には、神サマみたいな天才が出てくる。俺の知ってるそいつはちょっと変わっていたんだが、文句なく天才だった。この俺が、そいつの造ったものを見るたび自分の才能の無さを感じて絶望するくらいな。
ここだけの話だが、あー、ときおり俺たちは憧れるんだ。
破壊ってヤツに。
自分たちの作ったものを壊されるのは辛い。壊されるのを見るたびに、ぶっ殺してやる! という気持になるんだが。
なんて言うのかな。破壊は俺たちの敵じゃ……ないんだ。
壊す事と作ることは裏表。辛いけど必要なもの。
でもな、俺たちが物を壊すのなんかたかが知れてる。古い建物の解体とか、そんなもんだ。
そんなんじゃなくて。
もっと暴力的に、嵐のように何もかも破壊しつくしてくれ!!
……とまあそんな事を思う時がある。
破壊しつくされた廃墟を夢想すると、なんだか切ない気持になって胸が痛む。同時にな、そこから何かを一から作り出す事が出来る喜びに震えるんだ。
まあそんな感じでな、作ってばかりのその天才は、密かに壊す事に憧れた。そいつだけじゃねえ。さっきも言ったとおり、壊す事への憧れは、大なり小なり俺たちの中にはあるんだ。
でもそいつの憧れは強すぎて、さらに悪い事にそいつは天才だった。
究極のロボットを作る。とそいつは言った。何週間もラボに篭りきりで、出てきた時にゃプラズマが頭ん周りでパチパチいってた。
そいつの姿を一目見て、こいつおかしくなっちまったんだなってすぐ判ったんだが、渡された図面を見て、俺たちは息を飲んだよ。
作った奴の癖や思想がすぐ判るって、言ったろ。
黒く巨大なカノン砲、力強い銀色のボディ。
無駄なく、シンプルで、美しい。
覚えてろよ、機能的って事は美しいって事だ。
時代時代の流行は有る。だけど、ほんとに良い物ってのは、時代を超える。ごてごてした作りのロボットが流行ってるけどな、シンプルなのが一番良いんだ。あれから長い年月がたったが、デザインも中身もちっとも古びちゃいねえ。
天才が、破壊への憧れを形にしたんだ。妄執と言って良いほどの執念で。
俺たちはそいつが何を思ってこのロボットを設計したのかすぐに判った。でも協力したよ。皆、自分の憧れをコイツが形にしてくれたと思ったから。
ものを作るものの性って奴かな? いいもんは作りたくてしょうがねえんだ。それが……手に負えないほどの破壊をもたらすと知っていても。
そいつを構成するもの全て、一級品を揃えた。そのロボットに使う螺子の一個一個まで検品したんだぜ。
なんでも最新型が優れてると思うのは間違いだ。あの頃はまだ資源もあったから、良質の金属をたっぷり使えた。今じゃそうはいかねえ。
何ヶ月もかけて俺たちは丁寧に仕事を進めた。普段はスピードも重要視するんだが、今回に限ってそれはなしだ。好きなだけ時間をかけて、好きなだけこだわって、丹精込めて作ったんだ。
ベクターシグマが、そいつにどんな名前と人格を与えるのか、俺たちは息を呑んで待った。
目に赤い光が点った時は感動したね。
そいつは立ち上がると、右手で天を指差し、左手で地を差して言った。
「余はメガトロン。天上と天下を支配するものだ」
その時俺たちは、俺たちの理想が形を成したと知った。感動に震えて、目がかすんじまった。今でもその時を思い出すと手が震えちまうよ。
俺たちはとんでもないものを作っちまった。破壊するべきだ。誰もがそうするべきだと判っていた。だが、俺たちは誰も動けなかった。
魂を得たそのお方の圧倒的な存在感に気おされた。その命令に喜んで従い、自分の全てを捧げてしまいたいという強烈な欲求にかられていたんだ。
カリスマってやつだ。
「これこそ俺の願った破壊そのものだ」
隣にいたあいつが、震える声で呟いた言葉が忘れられねえ。
「俺が作りたかったのは、まさにこの破壊大帝なんだ」ってそいつは言った。
破壊大帝。い〜い響きじゃねえか。まさに破壊の神サマが誕生したってわけさ。
その新しく生まれたロボットは、見た目だけじゃねえ。頭脳も最高レベルなんだ。
何だって知ってるし、何だって作っちまうんだぜ。
ああ、もちろん作るよ。破壊するだけが能じゃねえ。だって俺たちがこの宇宙の支配者になるよう作った最高のロボットなんだ。作れない訳無いだろう。
左手で作って右手で壊すのさ。
最高の頭脳に、蛇のような狡猾さと獣の猛々しさ。支配者になるべくして作った体に支配者の魂が宿ったんだ。
俺はそう思って、なんてこの世はよくできているのだろうと感動していたんだが、だけど、だんだんそうじゃなくて……。
その魂がこの世に出でるために、俺たちに器となるボディを作らせたのかもしれない。と思うようになったんだ。
俺たちはなにか大いなる意思みたいなのに動かされていたんじゃないかって。
強かったか? だって。
強かった。ああ、強かったよ。惚れ惚れするほどに。
セイバートロン星を、本当に廃墟に変えてしまうくらい……。
作られたのは後にも先にもその一体だけさ。手間もコストもかかりすぎる上に、一番の理由は、技術的にもう作る事が出来ないって事だ。
そのロボットを設計したあいつは今いない。
一番重要な部分は、あいつの芸術的なまでの技術がないと作れねえんだ。ま、リペアくらいは可能だが。それでも俺は腕の悪いやつにあの体を触って欲しくないね。価値のわからないやつにいじくって欲しくない。
自分の全てを注ぎ込んだ最高傑作を作りたい。というのは、モノを作る奴なら強く感じる欲求だ。その欲望に負けてタブーを犯してしまったそいつがどうなっちまったのか、誰も知らない。
二度と作れない。
俺ァそんな事にも神を感じちまうんだ。
だって、帝王はこの宇宙に一人だけだ。そうだろ?
ENDE
ビルドロン部隊のいい働きっぷりを見ると、こんな事考えてたら面白そうだなと思った。メガ様は元からスペシャルに作られたロボットだと思う。
20070911 UP