Downmost 1











 プロールは仰向けに拘束され無言で天上を見ていた。

 ロックダウンより戦闘技術が劣っていたとは思わない。ロックダウンの戦い方は大味で、これが武術の試合であったのなら、奴を地に這わせていたはずだ。

 だが、戦いの後、ロックダウンに屈したのはプロールのほう。

 奴と俺の実戦における実力の差は明らかだ。

 苦々しい気持ちと共に、プロールは何度もそう思った。

 正攻法で攻めようとしたプロールに対し、ロックダウンはEMPという不意打ちを使い、プロールの意識を奪った。はじめこそプロールと同じスタイルで戦っていたが、プロールのほうが上だと察すると、すぐにそのやり方を捨てた。

 その頭の切り替えのよさ、正攻法で戦うと思わせて油断させた狡猾さ。すべてプロールに欠けているものだ。

 だから負けた。

 なぜ、ロックダウンがまともに自分と戦うと思い込んでいたのか。奴が卑怯な手口を使うことは十分に予測できたはずなのに。

 悔いても遅い。未熟さの代償は大きい。

 これまでに何十人ものオートボットが拷問を受けた場所に拘束され、プロールはロックダウンに見下ろされている。

 ロックダウンの顔の黒い隈取がゆがんだ。笑ったのだ。

「君は実に優秀で善良だ。純粋だと言っていい。君の戦い方は良い意味でも悪い意味でも綺麗すぎる」

 ロックダウンの口調は丁寧だったが、その声色には、弱いものをいたぶる喜びを隠しきれずにいる。

「だから俺に負ける」

 下卑た本性をにじみ出させ、ロックダウンが愉快そうな笑みを漏らした。

「周りのやつらを馬鹿だと思ったことは無いかね? 努力もせず不平ばかりを言い、簡単なことさえ出来ずに人に平気で迷惑をかけるようなやつらを。あるだろう? 隠さなくても良い。俺にはわかるんだよ。君は潔癖だからな、だらしの無いやつらが許せないんだ」

 プロールの耳元でロックダウンが囁く。プロールは頑なに無表情を通した。

 ロックダウンの目的はわかっている。獲物に恐怖を与え、怯える姿を楽しみたいのだ。ロックダウンが喜ぶことなど何一つしたくない。

「君は他人をそんな風に思ってしまった自分を反省する。弱いものを助け、悪と戦おうとする。実に尊い。君はいい奴だ」

 ロックダウンは、プロールの顔にさらに自分の顔を近づけた。

「多分君は知らないのだろうな。反吐が出るほどの悪というやつを」

 プロールの頬を、ロックダウンの鉤爪が優しく撫でる。吐き気を催しそうなほど不愉快な感触に耐えた。

「虫すらわかない惨めな死体、虐待された子供の悲鳴、廃人野郎のスカスカ脳味噌。そういうのを腹いっぱい食わせてやるとも」

 ロックダウンは楽しそうに言うと、プロールと目を合わせてにやりと笑った。

「教えてやるぜ」

 ねっとりとした声色の囁きに、プロールは初めてロックダウンのほうを見た。

「それなら今知ったから結構だ。反吐が出るほどの悪など、お前の汚い笑い顔で十分」

 プロールの返事に、ロックダウンは声を上げて愉快そうに笑い出した。

 薄暗い部屋に笑い声が跳ね返り、奇妙な残響音が響いた。ぴたりと笑うのをやめたロックダウンがいきなりプロールを殴りつける。

「なに、遠慮しなくていい。俺はおまえみたいな奴を傷つけるのが一番好きなんだ」

 拘束され、抵抗するすべの無いプロールを力任せに殴りつけながら、ロックダウンは落ち着いた口調で言った。

「心も体も」

 ようやく殴るのをやめたのは、許したからではなかった。ロックダウンは壁に飾ってある戦利品のうちから槍状の武器を取ると、再びプロールを見て笑った。

「おまえの社会勉強に喜んで付き合ってやるよ。俺だって気持ち良いんだからお互い様ってやつだ」

 これ見よがしに槍を見せ付けると、ロックダウンはプロールのひび割れた装甲に穂先をあてがい、ゆっくりと力を込める。

 プロールの顔が苦痛にゆがみ、声を上げかけたが、プロールはその声を漏らさずに飲み込んだ。

 みるみるうちにプロールの装甲が大きく裂け、槍の切っ先が内部を傷つけて火花が散った。致命傷にはならない程度に、ただ苦痛だけを与えるために、ロックダウンは槍を左右に捻りながら穂先でプロールの体を深くえぐり、ぐちゃぐちゃに破壊する。

「かはっ……!」

 プロールが耐え切れず声を漏らすと、ロックダウンは力を緩めた。

「痛いか? 痛いよなあ? 痛くしてるんだから」

 ククク……。と不快な笑い声がプロールの聴覚器官にこびり付いた。

 痛みに馴れてしまわないように、ロックダウンは緩急をつけてプロールをいたぶる。やがて、ロックダウンはプロールを傷つけるのをやめ、プロールに見せ付けるように、指で摘んだ小さな拘束具を突きつけた。

「これが何かわかるか?」

 必死で顔を背け抵抗したが無駄だった。ロックダウンは、プロールに奇妙な口枷をはめた。口を開けた状態で固定され、ぽっかりと穴があいている。

 無様な姿を晒すプロールを見て、ロックダウンが舌なめずりをした。

「まあお前は大事な商品だから、殺しはしねえよ、安心しな。俺は……だがな」

 俺の雇い主に引き渡す前に、ちょっと楽しむだけだ。ロックダウンは付け加えた。プロールは、自分にどろっとした欲情を注ぎ込むために近づいてくるロックダウンを見ることしか出来ない。

「ちょっとあんたのおクチの中を公衆便所にするだけさ」

 ロックダウンの言葉と共に、プロールの口がふさがれた。






                                              ENDE.



私の脳内で、三部作だった(3はどSラチェット×どMロックダウン)のですが3は無し。


20080411 UP


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