Sygdommen til Doden










 スコルポノックは、今だかつてこんなに不安になった事はない。


 ブラックアウトがいない。

 ブラックアウトがいない。


 壊れたレコードのように、スコルポノックは繰り返す。


 ブラックアウトはどこにいる?

 砂の中にも、空の上にも。

 乾いた地表も、水の中にも。

 どこを探しても見つからない。

 ブラックアウト?

 ブラックアウト?


 砂漠に浮かぶ蜃気楼ゆらゆら。

 あいにく蜃じゃない。蠍の吐く息にブラックアウトは浮かばない。

 だからスコルポノックは記録回路を探る。一つ一つ大切に。


 最初に拾ってもらった日。

 何百万年もの戦歴。

 ブラックアウトの中でまどろむ心地よさ。


 一番好きな記憶を見つける。


 在りし日の思い出、メガトロンを見上げる恍惚としたブラックアウト。

 金属の屍を重ねて作った山の上、金属の月の光を浴びながら、ブラックアウトの神は言いました。


 往け、往け、往け。

 戦いを求める本能のままに。

 自らを縛る鎖を引きちぎり、本当の姿を取り戻せ。

 新しい世界の誕生のために、この世を生贄に捧げろ。


 闇にキラキラと飛び散るスパークの輝き。命が消える瞬間に燃え上がりブラックアウトを飾る。

 飛び交うエネルギービームの間をかいくぐる。ブラックアウトのボディに光が映って、赤、青、黄色。次の瞬間には、真っ白に染まる。

 ブラックアウトが壊した相手が爆発し、白い光が次々に膨れ上がってはじけて消える。

 オイルが焦げる嫌なにおい、巻き上げられる金属の砂。

 断末魔の悲鳴と、耳を劈く爆発音。

 何も壊すものがなくなって、月に吠えるブラックアウトを地面に這いつくばりながら見上げていた。


 綺麗、綺麗。戦うブラックアウトは本当に綺麗。

 スコルポノックが浮かれて、うっかり見てはいけない記憶を開けてしまう。


「戦えなければ死ぬのみ」

 我々は戦士。戦えなければ生きる意味がない。

 もう一つの神の言葉。


 消えた生体反応。意味する事はただ一つ。

 呼べども答えぬ。待てども来ぬ。


 記憶回路のデータに向かい、スコルポノックが叫ぶ。


 ブラックアウトは死なない!

 戦えなくてもいいから生きていて。

 あれほど強くて美しいものが死んだりするものか。


 スコルポノックはふと思う。


 でも。

 ブラックアウトは……。

 戦えぬ事を恥じるだろうか?

 神と崇める者の言葉に逆らい、おめおめと生きながらえる事よりも、死んだほうがましだと思うだろうか?


 でも生きていて、生きていて。

 お願いだから生きていて。

 それが我侭だと言うのなら、せめてスコルポノックをぐちゃぐちゃに引き千切ってから逝って。

 最後に優しくして。


 帰りたい。

 帰りたい。

 ブラックアウトの元へ。


 こんな砂の中でなく、ブラックアウトの中でなら眠れるのに。

 尻尾が痛いよブラックアウト。じくじくするよ。

 ブラックアウトに診て欲しいから、この尻尾は治しません。


 じわりじわりと眠くなるのはどうして?

 こんな気持ちで眠るのは嫌。だけど体が動かない。


 ブラックアウトの夢を見るために、ほんの少しだけ眠ります。


 砂の中でひっそりと息を潜め、スコルポノックはゆっくりと意識を手放した。




ENDE


数ヵ月後、そこには元気に走り回るブラックアウトの姿が!(キルヒアイスの声で)



20071229 UP

inserted by FC2 system